スコットランドでガーデンを楽しもう! ~Kailzie Gardens~

スコットランドはボーダーズに位置する広大な庭園、ケールジー・ガーデンズ。春にはスノードロップや水仙、ブルーベルの花が咲き乱れるエリアを楽しむ事ができ、初夏には鮮やかなウォールド・ガーデンを、そして野生のオスプレイ(鷹科の姉妹群、ミサゴ)の成長や飛ぶ姿を眺める事も出来る場所。今回はこのケールジー・ガーデンズのレポートをお届けします!

スコティッシュ・ボーダーズに位置するKailzie Gardens は、イギリス英語での読み方に因んでいるのでしょうか、日本語では『カイルジー・ガーデンズ』と訳されている事が多いようです。

しかし私のガーデニングの師匠とさせて頂いているスコットランド人の方に聞くと『ケ―ルジー・ガーデンズ』と発音しており…。

どちらにすべきか悩んだのですが、スコットランドのガーデンという事で、ここでは『ケールジー・ガーデンズ』でご紹介させて頂きますね。

ケールジー・ガーデンズの最寄りの街であるピーブルズは、スコットランドとイギリスの国境のそば、ボーダーズに位置し、エディンバラから南へ約23マイル(約37キロ)の場所にあります。

ボーダーズエリアは繊維事業の場所として知られ、ピーブルズも19世紀から20世紀初頭に毛織物産業で発展を遂げました。

ピーブルズは人口は約8500人前後の街ですが、自然豊かなボーダーズの周囲では、釣りやウォーキング、ゴルフやサイクリング、乗馬などを楽しめるアクティビティも豊富で、現在では夏は特に観光で人気のある街として知られています。

ケールジー・ガーデンズの歴史

ケールジー・ガーデンズは全体の敷地は17エーカー(約68796.6㎡)、東京ドーム1.4個分の大きさと言われています。
非常に大きな敷地を誇る場所ですが、ガーデンにはその一部が使われています。

じつはケールジー・ガーデンズの歴史はそれほど多くは残されてはいません。と言うのも、この敷地とかつてあった邸宅は、何度も持ち主が変わっているからです。

最初にケールジーの持ち主の名前が歴史上において登場するのは1296年、エドワード1世に忠誠を誓ったウィリアム・オブ・ホップ・カローとなっています。

次に史実に残っているのは1326年、スコットランド王であるディヴィッド2世から助成金を授与されたジェームズ・オブ・ツウィーディーとなります。
ケールジーの敷地はそれから数世紀に渡り、ツウィーディー家のものとして存在していました。

飛んで1638年にはトラクィアの伯爵であったジョン・スチュアートによって維持されていましたが、その後の1656年からは何度も所有者が変わっています。

そのうちの一人であるジョン・ナター・キャンベルの時代、1800年代に火災が発生したため、かつてあった邸宅を立て直し、またこの時代に今日も残る庭園の基礎を造り上げたと言われています。

1914年、ケールジーの邸宅と敷地の持ち主になったのは、ウィリアム・クリーであり、この人物がケールジー・ガーデンズを造り変えたレディ・アンジェラ・バッハン・ヘプバーンの義理の父の叔父に当たる人でした。

ちなみに、アンジェラ・バッハン・ヘプバーンの名前であるバッハン ( Buchan )は、イギリス英語では『バカン』、あるいは『バッカン』と発音されるのですが、スコットランドでは『ch』の発音は全く別なものとなります。

『ch』は『ハ』と『カ』の中間の音を、喉で鳴らすような発音となり、日本語ではどれを当てはめれば良いのか難しいのですが、ここでは『ハ』として、『バッハン』でご紹介していきたいと思います。

ケールジーの敷地内に、ジョン・ナター・キャンベルの時代に改装されたという邸宅、ケールジー・ハウス。

そのジョージ王朝のスタイルで建てられたという邸宅、ケールジー・ハウスは、アンジェラ・バッハン・ヘプバーンがこの場所を改装し始めた時、非常に古びた状態で修復は難しかったそう。

1962年に邸宅そのものは解体されており、現在では庭やその周りに見られるほんの一部を除き、その姿は残っていません。

そして庭園は持ち主となったアンジェラ・バッハン・ヘプバーンの手により、1965年より大規模な改装が行われる事になったのです。

ケールジー・ガーデンズの生みの親、レディ・アンジェラ・バッハン・ヘプバーン

スコットランドはイースト・ロージアンの男爵の家柄に生まれたアンジェラ・バッハン・ヘプバーンは、ケールジー・ガーデンズを生まれ変わらせた人物として知られています。

さらに子供の頃にその手伝いをしていたという、ノーサンバランド公爵夫人となった彼女の娘、ジェーン・パーシーは、イギリス北部に位置するアニック・ガーデンの再開発を行っています。

ボーダーズエリアに著名なガーデンを造り上げた母アンジェラと、そして北イングランドの最大のアトラクションとして知られるガーデンを造り上げた娘のジェーン。

親子2代に渡り、広大なガーデンの改装、修復という大事業を手掛けていたという事実から、ビジネス的手腕を持った、ガーデニングを非常に愛する家系であるのが分かります。

ケールジー・ガーデンズの魅力

ケールジー・ガーデンズに訪れると、最初に目にするのがチケットオフィスがある中庭の可愛いカフェ。

こちらは1811年に建設され、もともとは犬舎、厩舎、そして労働者のための宿泊施設だったとか。

こぢんまりとしたチケットオフィスはギフトショップも兼ねており、スコットランドらしい特色を持った可愛らしいグッズが色々と売られていました。

また、ガーデンの入り口、そしてチケットオフィスのすぐ横には、小さな植物を売られているショップが。

英国のガーデンでは必ずと言ってもいいほど、植物を販売しているショップ、ナーサリーがあり、そして通常、その庭園に植えられているものと同じ植物が販売されています。

ちなみにどこのガーデンを訪れても、ナーサリーで売られている植物はあまりお安くないイメージで…。残念ながら、今回も購入には至りませんでした。

ケールジー・ガーデンズのウォールド・ガーデンの壁

チケットオフィスのすぐ横にあるゲートを抜けて、ガーデンの入り口に向かうと気付くのが、ウォールド・ガーデンの高い壁。

今までに見たウォールド・ガーデンの中でも特別高く感じる壁は、一番高いところで18フィート(約5メートル)もあるのだとか。

実はこの壁の高さや内部のレイアウトには、ケールジー・ガーデンズの位置する場所に理由があったのです。

ケールジー・ガーデンズのあるエリアはもともと、West Kelloch という名で知られていたそうです。

Kelloch とは樹木が茂った場所の谷、あるいは森林の谷、という意味で、このエリアは渓谷の底に位置していたため、そのような名前が付いたのではないかと言われています。

しかしケールジー・ガーデンズは、実際には海抜600フィート(約180m)の場所にあり、また庭は北と東に面しているため、冬の寒さが厳しいスコットランドの中でも特に寒く、また霜の発生率も非常に高いのだそう。

イングリッシュ・ガーデンに訪れるとよく目にするウォールド・ガーデン。

その四方を取り囲む壁は、草花を引き立てる装飾的な役割を持ち、外部の人間や動物の侵入を防ぐためにも使われて来たものと言われています。

またそれだけではなく、ウォールド・ガーデンの壁は寒さや風、霜を防ぐためにも非常に有効なのです。

ケールジー・ガーデンズは非常に寒さの厳しい場所に位置しているため、植物たちを寒さや強風から守るために、このウォールド・ガーデンの高い壁はなくてはならない存在であったのが分かります。

ケールジー・ガーデンズ、壁と垣根を使ったレイアウト

また、ケールジー・ガーデンズで目に付くのは、このウォールド・ガーデンの壁の中にある庭園に垣根を利用し、ガーデンをエリアごとに区切っているレイアウト。

ひとつのセクションを通り抜ける度、新たなシーンを作る事に大活躍しているのがこの垣根です。

イングリッシュガーデンでは、よくこの垣根を壁の代わりに使う方法が見られますが、ケールジー・ガーデンズでは、壁と同じく垣根もある程度の高さを保っているのが特徴的でした。

バッググラウンドのカラーリング

ケールジー・ガーデンズの庭の中央には、垣根に囲まれたボーダー・ガーデンが配置されており、壁の向こう、ゲートの隙間から見えるエレガントな噴水が、このセクションの美しいフォーカルポイントになっているのが分かります。


このボーダー・ガーデンは、背後の垣根の高さが存分にあるため、背丈のある草花を植えてもその存在感に負ける事のない見事なレイアウト。

また、植えられた草花の色彩は、黄色から白、そしてピンクやブルー系へと、植物の持つ自然の色合いにグラデーション効果を利かせて、目に優しく映る、流れるようなカラーリングを描いています。

また、このボーダー・ガーデンの背後の垣根は銅色のブナを使い、手前の花の色が美しく映える植栽法となっているのが印象的でした。

白い花の後ろにホワイトカラーを使った壁や塀などがあると、花の色が目立たなくなってしまうように、花はバッググラウンドのカラーによって、印象が随分と異なってしまうもの。

しかしケールジー・ガーデンズのボーダー・ガーデンのように、バックグラウンドに濃い茶色のような色を用いると、花の色、そして葉のグリーンカラーが、生き生きと目立つ存在になるのが分かります。

花や葉の持つ美しい色彩を、ガーデンの中でもっと鮮やかにさせたいと思った時に、きっと役に立つカラーリングのテクニックだと感動です。

ケールジー・ガーデンズのグラスハウス

ケールジー・ガーデンズの建物は先にもご紹介したように、一部を除いて解体されてしまったのですが、庭にはまだその名残を見つける事が出来ます。

庭園の中心的建築物とも言えるグラスハウスは、19世紀後半に造られたものを復元されたものだそう。

このグラスハウス、英国のガーデンでは庭のフォーカルポイントとしてよく見られる建造物です。また、ガーデンだけでなく、一般の家庭でもコンサバトリーは忘れてはならない存在。

天気が悪いと言われがちな英国で、太陽を出来る限り堪能したいという思いから、きっとそれは多くの人々に必要とされて来たに違いありません。

イギリス本土よりもさらに天気が不安定で、寒さの厳しいスコットランドでは、昔からこのグラスハウスで多くの植物が育てられてきたのでしょう。

ケールジー・ガーデンズの意外にも広いグラスハウスの内部には、ゼラニウムやベゴニア、シザンサス、フューシャなどの花が栽培されていました。

おそらく庭園の中で一番日当たりの良い場所に設置されたであろうグラスハウスの中では、色とりどりの花が鮮やかに咲き乱れていて、花を見ながらゆったりとした時間が過ごせました。

グラスハウスの隣には、つるバラを誘引したパーゴラと、シャビ―な雰囲気を持つシッティングエリアが。

パーゴラ自体はとてもシンプルな造りなのですが、その素朴さが可憐なローズの魅力を引き立てているように感じられました。

ケールジー・ガーデンズのキッチン・ガーデン

最初にケールジー・ガーデンズが完成したという1812年には、このガーデンはキッチン・ガーデンであったそう。

現在の持ち主であるアンジェラ・バッハン・ヘプバーンが改装した後も、庭の入り口にキッチン・ガーデンの面影を見つける事が出来ます。

キッチン・ガーデンの大きさは、庭全体で見ると小さなスペースなのですが、周りに配置された花壇とのバランスが美しく、花壇とキッチン・ガーデンの組み合わせを考えている方には、参考になるレイアウトです。

チェックポイント!ケールジー・ガーデンズのコンテナ、支柱

ガーデンに滞在すると、その庭園ではエクステリアはどんなものを使っているのか、コンテナはどんなタイプを使用しているのかが気になるものですよね。

今回訪れたケールジー・ガーデンズでは、レイズドベッドを多く用いているのが印象に残っています。石で縁取りした花壇とも相性が良く、ナチュラルな雰囲気をうまく演出していました。

また、背丈のある植物を支える支柱ですが、これもガーデンに滞在した時は常にチェックするアイテム。

ケールジー・ガーデンズで気に入ったのが、レイズドベッドの淵と平行に、中央に高さを合わせた支柱を作る方法です。

実は自分でガーデニングをする時に、支柱のバランスが悪かったり、支柱が花よりも目立ってしまったりと、どうもその強い存在感が気になっていたのです。

ケールジー・ガーデンズで見かけたこの方法だと、見た目のバランスもよく、支柱の役目もしっかり果たしてくれるはず。

来年には我が家でもこの方法を取り入れてみたいと感じさせる、優れたアイデアでした。

ケールジー・ガーデンズのツリーウォーク

多くのガーデンで見る事の出来るツリー・ウォークですが、ケールジー・ガーデンズのツリーウォークは1980年に完成したそう。

円形を描いたアイアンに、キングサリを誘引したもので、その名をとってラバーナム・ウォークと呼ばれています。
残念ながら滞在した日は既にキングサリのシーズンは終わってしまった後でしたが、満開の頃はさぞかし素晴らしい眺めが堪能出来るに違いないと思います。

ケールジー・ガーデンズへ行ってみよう!

かつてあった庭や邸宅の面影は、ウォールド・ガーデンの壁、そしてグラスハウス、カフェとなっている厩舎、そして門と、その長い歴史を知るには少し難しいケールジー・ガーデンズ。

今ではその歴史を垣間見る事が出来なくなってしまっても、1965年からガーデンを1から造り直したアンジェラ・バッハン・ヘプバーンの努力は、きっと並大抵のものではなかったと理解出来ます。

現在では2人のガーデナーとボランティア・チームによってガーデンケアがされているそうです。

寒さに厳しいスコットランドの中でも更に過酷な条件であるエリアを克服し、1970年代より一般公開されているケールジー・ガーデンズ。

庭園はもちろんの事、自然豊かな敷地や、スコットランドでは最も古いと言われている1725年に植えられたカラマツ、そしてボーダーズエリアの美しい丘陵地帯の風景も楽しむ事が出来ます。

プレイグラウンドもあるのでお子様連れにもぴったり、また、18ホールのパッティンググリーンや、野性味溢れるオスプレイの見学など、アクティビティにも事欠かない場所。

スコティッシュ・ボーダーズに訪れた際には、是非ケールジー・ガーデンズを訪れてみませんか?

ケールジー・ガーデンズへの行き方

ケールジー・ガーデンズへの最も簡単な移動手段は、スコットランド内を旅する時と同じように車となります。

それというのも、ケールジー・ガーデンズの最寄りの街であるピーブルズまでは列車が走っていないのです。

もし交通公共機関を利用するのであれば、エディンバラのバスステーションからピーブルズまでのバスでの移動が一番簡単なものとなります。所要時間は約1時間20分ほど。

ピーブルズの街からケールジー・ガーデンズまでは3マイルちょっと(約5キロ)なので、タクシーでおよそ10分ほどの距離となります。
ボーダーズのバスは下記のウェブサイトを参考にして下さいね。

ケールジー・ガーデンズまでのタクシーは、ピーブルズの街中で見つける事になりますが、見つからない場合はホテルやレストランで聞くのがおすすめです。

ガーデンの周囲では帰りのタクシーを見つけるのは困難なので、往路の予約も忘れずにして下さいね。

ピーブルズや近くの街であるメルローズは、スコティッシュ・ボーダーズを観光する際に拠点としておすすめの街。

レストランも多いので、ガーデン滞在と食事の時間をうまく組み合わせてみてはいかがでしょうか。
ガーデンのオープン時間、料金などの詳しい情報は、下記のウェブサイトを参考にして下さいね。