チェルシー・フラワーショー2017を訪ねて Vol.2 ~英国で最も有名なガーデン&フラワーショー~

毎年5月、イギリスはロンドン・チェルシー地区にて行われ、世界でも名高いガーデン&フラワーショーとして知られるチェルシー・フラワーショー。その年のガーデンの流行が分かる、デザイナーによるガーデン・ショーや、庭造りのヒントがいっぱいの花や草木、エクステリアの展示などをレポートします!

ガーデニング愛好家であれば一日中いてもきっと楽しめる、英国を代表するフラワー&ガーデンショーである、チェルシー・フラワーショー。

前回のレポートに引き続き、今年のチェルシー・フラワーショーで印象的だったガーデン、そして会場内に展示されたショップや植物たちをご紹介します。

Breaking Ground

こちらはショーガーデン部門でゴールドメダルを受賞した『Breaking Ground』 。アンドリュー・ウィルソンとギャビン・マックウィリアムによるデザインです。

このガーデンのハイライトとも言えるコンセプトは、バークシャーに位置するウェリントン・カレッジの方針と言える、『教育の前に立ちはだかる壁を壊し、発展と進化のテーマ』を探求したものだそう。

またガーデンのデザインは、ウェリントン・カレッジの周囲にある土地からインスピレーションを得たもので、ガーデンの中に置かれた、高く、彫刻のようなフォルムをした透明な壁は、たくさんの要素と素材を結び付けているのだとか。

ガーデンに作られた形状と図案の接続がこのガーデンのキーポイントだそうで、ニューロンとシナプスの結びつき、教育と学びの関連からインスパイアされているそうです。

咲き誇る植物は、シナプスからインスピレーションを得ており、色鮮やかで質感のある植物たちが、いたるところをなだらかに、流れるように植えられている姿は、思考の連続性を表しているのだそう。

ナチュラルさがいっぱいの植物に、芸術的なシェイプを施された彫刻とのコンビネーションは一瞬ミスマッチなような気がするのですが、コンセプトをじっくりと読むと「なるほど」と理解出来るガーデン。
見る場所によってガーデンの雰囲気が異なるのも面白かったです。

Silk Road Garden, Chengdu, China

ショーガーデン部門でゴールドメダルを受賞した、ローリー・チェットとウッドパトリック・コリンズのデザインによる、豊かな歴史と文化を持ち、中国は四川省の首都であり『天府の国』と呼ばれて来た成都市からインスパイアされた『The Silk Road Garden』。

こちらのガーデンは、成都市と四川省の風景の特色である、建築物と概念を描写しているのだそうです。
植えられた色鮮やかな沢山の植物は、中国の多くのガーデンで展示している、中国を起源とした植物なんだとか。

ガーデンの中央に設えたシアター型の広場には、3000年の太陽のシンボルと、成都市の伝説的な人物像が置かれています。
ガーデンの端から端まで通っている『Silk Road 』を象った道は、世界的・歴史的なも有名なシルクロードの貿易の道と、成都市では有名なシルクの刺繍、そして商業、文化、歴史をモチーフとしているデザインだそう。

スケールの大きさが際立っていた、華やかで、長い歴史を物語っていたこちらのガーデン。
今年のチェルシー・フラワーショーではナチュラルさを強調したり、あるいはアーティスティックな庭が多く感じられましたが、こちらのガーデンはシンプルながらも艶やかであり、突出してたくさんの花を使っていたのが印象的でした。

The RHS Greening Grey Britain Garden

チェルシー・フラワーショーを主催しているRHS(英国王立園芸協会)が展示したのが、こちらの『The RHS Greening Grey Britain Garden』です。
ガーデンの背後に設置されたビルの風景や、マンションの周囲にたくさんの植物が植えられているのが印象的でした。

このガーデンは現代の風景、バルコニーやビルディングの周囲や建物そのものに植物をふんだんに取り入れ、都会での生活に必要なグリーンを、実践的、かつ想像的に取り入れる解決策に焦点を当てています。

デザイナーのナイジェル・ダネットは、ガーデンや植物はもはや現代の生活において欠かせない存在であると言い、都市での汚染のレベルは危険なほど高まっており、植物が今日の環境における脅威を鎮静してくれるという事実を理解し、暮らしに取り入れなくてはならない、と語っています。

緑の多いイギリスですが、それでも都市中心部ではなかなかガーデニングは出来ない場合もあり、植物に触れ合う機会が少ない人々が多いのも事実です。

その解決策として提案された、今の時代に似合ったこのガーデン。大都市での暮らしでも、こんな風に誰もが植物の存在を身近に感じられるようになれば良いな、と思わせるデザインでした。

The Chris Evans Taste Garden

今年初めて行われた、BBC Radio 2 の50周年を記念して、同局の人気パーソナリティ、またそのガーデンの提案者とデザイナーがタッグを組んで造り上げたガーデンを幾つかご紹介します。

イギリスのTVプレゼンター、ラジオのパーソナリティ、プロデューサーで実業家でもあるクリス・エヴァンスのガーデン『The Chris Evans Taste Garden』。

このガーデンは、彼の名物ラジオ番組『Breakfast Show』から、フードライターで作家でもあるメアリー・ベリーが提案したものを、デザイナー、ジョン・ウィートリーがデザインしています。

ここには50種類もの野菜が植えられ、ガーデンの奥に植えられたオレンジ色のダリアはクリス・エヴァンスの髪の毛への賛辞なのだとか。
イギリスではアロットメントと呼ばれている市民菜園やたくさんの地域社会の栽培者に向けて、イギリスのガーデンで美味しい植物を祝う意味で造られたそうです。

植物は味覚力と充実した生活習慣を作りだし、生活を活気づけてくれる、というガーデンが与えてくれる幸福をテーマにしているのだそう。

野菜たちが瑞々しく、また周囲に植えられた花との相性も抜群で、こんなガーデンで造られた野菜を使った料理はさぞかし美味しいに違いない、と思わせてくれるガーデン。
もっと多くの野菜作りに挑戦したい、と感じさせる素敵な庭でした。

The Anneka Rice Colour Cutting Garden

イギリスのラジオ、TVのパーソナリティであるアネッカ・ライスのガーデンは、鮮やかな色彩が特徴の、おしゃれなショップ『デザイナーズ・ギルド』のデザイナー、トリシア・ギルドが提案し、デザインはカッティング・ガーデンやヴェジタブル・ガーデンで有名な、サラ・レイヴンによるもの。

どちらも女性の好みをしっかりと理解している二人が造り上げたガーデンですから、女性人気は一番だったのではないでしょうか。

奥に設置された収納小屋の横に設置された、椅子があるエリアからは美しいガーデンを眺める事が出来、庭仕事を終えた後に休憩するには至福のスペースに違いありません。

また豊富な色彩で心躍るこの庭は、サラ・レイヴンらしいカッティング・ガーデンです。
なお、イギリスでゴールドカラーは結婚50周年記念の色であり、BBC Radio 2 の50周年をこのガーデンで賛辞しているのだそう。

鮮やかで大胆、それでいてシック、というトリシア・ギルドがデザインするブランド『デザイナーズ・ギルド』のテキスタイルの大ファンであり、サラ・レイヴンのキュートなカッティング・ガーデンの本を読むのが大好きな私にとっては、見ているだけで楽しかったこのガーデン。

出来れば中に入って、じっくりと見学したいというのが正直な感想で、外からしか眺められないのがとても残念でした。

庭に植えたい植物と出会える! グレイト・パビリオン、そして見ているだけで楽しいショップの数々

チェルシー・フラワーショーでは、デザイナーたちが最新のガーデンを見せてくれるショーももちろん楽しいのですが、たくさんの植物が展示されているグレイト・パビリオンもとても楽しい催し物のひとつ。

ネットや本、雑誌などで欲しい植物を探していても、本当に咲いている姿はどんなものなのだろう、と悩む事もありますよね。

あるいは今まで見つからなかった可愛い花に会える事も出来る、たくさんの植物が展示されているのがグレイト・パビリオンです。
1951年に初めて設置された、グレイト・マーキー(大型テント)は、ギネスブックに『世界で最も大きなテント(31/2エーカー=14,164㎡)』として記録されたそうで、現在の組み立て式建築物へは2000年に変更されました。

グレイト・マーキーはその後リサイクルとして7000以上のバッグ、エプロン、ジャケットなどに使われたそうです。

また、ガーデニングでは花壇の寄せ植えも、どんな花をどこに植えたらバランスが良いか、何年ガーデニングをしていても悩むところ。

グレイト・パビリオンでは、実際に花壇を設えて植えてあるので、そこから素敵なヒントを得られるのです。
今回多くの展示の中からとても印象的だったのがこちらのお店です。

コテッジガーデンをテーマにしたこちらのショップは、寄せ植えのデザインがとても素敵で、参考にしたいポイントがたくさんありました。

展示場ではその場で苗や種の販売を取り扱っているところもあり、欲しい植物もたくさんありましたが、スコットランドから来た私にとっては購入して帰るのは難しく、それでもショップの方に聞くとネットで販売しているとの事なので、すぐにオーダーする気になりました。

こんな風に、新たにお気に入りのショップと巡り合えるのが、チェルシー・フラワーショーの素敵なところです。

もちろん植物だけでなく、花とエクステリアとのバランスもとても良い勉強になりました。

イギリスの園芸を見ると、アンティークの雑貨を非常に上手く庭に取り入れている方が多いのですが、本やTVなどで見てもいまいちピンと来なかったものでも、こうして実際に眺める事が出来ると、花と雑貨のバランスなどがよく分かり、とても参考になります。

会場の至るところにたくさんのショップがありますが、もちろん我が家の庭には置く事すら出来ないものもたくさんあります。

でも温室や作業小屋など、購入する事は不可能でも、見ているだけで楽しくなる展示がいっぱい。
将来宝くじを当てたら、あるいは来世生まれ変わったら(?)、そんな時はこんな庭を造りたい! と妄想するだけでも楽しいのです。

植物以外にも、種や雑貨、エクステリアのショップも充実。どれも魅力的なアイテムがいっぱいで、ショップに入るとなかなか出て来れません。

シャビーシックな庭にぴったりの、ガーデニング・アイテムを取りそろえたアンティークショップでは欲しいものがたくさんありました。

また、木々にはこんなランプも取り付けられていたりして。
会場全体が大きなガーデンのようになっており、ガーデニング愛好家にとっては見るもの全てがワクワクとする、心躍る場所になっています。

チェルシー・フラワーショーは英国では最も有名であり、また歴史も古く、非常に規模の大きいフラワー&ガーデンショーですが、その名の通りガーデンについてさまざまな角度から楽しむ、また勉強出来るショーとなっています。

なお、アーティザン部門のガーデンや、ショーガーデンなどはパッとだけ見ると、意味が良く理解出来ない事も多いので、チケットを予約した際、一緒にパンフレットを購入し、デザイナーのコンセプトを分かっておくと、もっと楽しむ事が出来るのでは、と思います。

チェルシー・フラワーショーのチケットは毎年2月頃に発売されます。
売り切れ必至なので、滞在されたい方は1月後半からRHSのウェブサイトを小まめにチェックするのがおすすめです。

当日はお天気が良ければ帽子は必需品、また雨の多いイギリスですから、傘もお忘れなく。当日大きな荷物を持っていても、会場には荷物を預ける場所もあります。

お昼時は大変込み合い、レストランでの場所を確保するのも一苦労しますから、お水などは持参しておく方がベターです。

ゆっくりとガーデンショーを見たい方は朝の時間に来場する事をおすすめします。平日でもお昼時は大変混み合い、展示されたガーデンを見るのも大変な事も。

また、会場のチェルシー・ホスピタルへは、最寄り駅スローンスクエア駅から徒歩15分ほどありますが、人の波について行くと自然に到着してしまいます。
ご不安な方はサイトに出ている地図で確認して下さいね。

ガーデニングが好きな方なら、誰でもきっと楽しめるチェルシー・フラワーショー。開催時の5月はイギリスでは一番気候の良いと時期とも言われています。
チェルシー・フラワーショーと一緒に、他のガーデンとの滞在も組み合わせて、一度訪れてはみませんか?