スコットランドでガーデンを楽しもう!~ポートモア・ガーデンズ Vol.1~

スコットランドのボーダーズエリアには、おすすめしたいガーデンがたくさんありますが、その中でも今年一番のお気に入りとも言えるガーデンに出会えました。個人の庭とは思えないほど、非常に完成度の高いポートモア・ガーデンズのレポートをお届けします!

イギリス、ウェールズのオープンガーデン

日本でも近年では自宅の庭を一般に公開するオープンガーデンが行われていますが、ガーデニング愛好家の多い英国では、オープンガーデンは長い歴史を持っています。

最もよく知られているのは、ナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)で、設立は1927年と今年で90年の歴史を誇る慈善事業団体です。

最初の年には609の庭園が一般公開され、1931年には1000を超えるガーデンがオープンし、2017年には3700ほどのガーデンが公開されました。

ナショナル・ガーデン・スキームによるオープンガーデンの情報は、毎年本となって販売され、カバーに黄色い色が使われていることから、イエローブックと呼ばれています。

スコットランドのオープンガーデン

ナショナル・ガーデン・スキームによって公開されているガーデンはイギリス、そしてウェールズになりますが、スコットランドでも同様の、ナショナル・ガーデン・スキームの姉妹慈善団体が存在します。

名称はスコットランズ・ガーデンズ(Scotland's Gardens)。設立はナショナル・ガーデン・スキームより4年遅い1931年となり、エディンバラを拠点とした園芸慈善団体です。

庭を公開した際に得た収入は、60%がスコットランズ・ガーデンズが選んだ4つの慈善団体に寄付され、残りの40%は庭の所有者が選んだ慈善団体に贈られています。

スコットランドのオープンガーデンの情報もやはり本になっていて、こちらはイエローとグリーンのカラーでまとめられています。

イギリス、ウェールズ、そしてスコットランドとともにいずれかの団体に属し、自身の庭をオープンガーデンとして一般公開したい場合には、それぞれのチームが庭を来訪し、オープンガーデンとしての資格があるかどうかをしっかりとジャッジするそうです。

実際にはどのような厳しい?判断があるのか分からないのですが、このオープンガーデンに参加出来るのは、見ごたえのあるガーデンであるという証でもあり、ガーデナーにとっては非常に名誉な事だと言えるでしょう。

今回滞在したポートモア・ガーデンズも、スコットランズ・ガーデンズに登録しているガーデンのひとつとなります。

個人の庭とは思えないほどのスケールとセンス抜群のレイアウト、丁寧に手入れされた植物たち、そして鮮やかな色彩を放つ素晴らしいカラーリングで、今年一番とも言えるガーデン滞在になりました!

ポートモア・ガーデンズ

ポートモア・ガーデンズは一般の地図にも載っている観光地となった他の庭園と違い、個人の庭を決められた日にちだけ公開しているガーデンなので、門の前に『Garden Open』と書かれた小さなサインに最初は気付かず、通り越してしまいました。

門からはかつて門衛小屋と呼ばれていた、ゲートの開け閉めを行う使用人が住んでいた住居であった建物しか見えず、本当にここで良いのか悩んでしまったほど。

ちなみにこの門衛小屋、最近では邸宅の使用人が住むのではなく、賃貸にしたり、この住居だけを販売するケースも多くなっています。

ポートモア・ガーデンズのオープン期間は僅か2か月間。
それも週に1回だけという事もあり、非常に人気の高いガーデンだったようで、入り口でウロウロしている間に他の来場者の方たちも現れ、その後を付いて行きました。

スコットランドのガーデンは、イギリスのガーデンに比べても来場者の数が少なく、いつもあまり人のいない、静かな中で庭園を散策出来るのが大きな魅力なのですが、このポートモア・ガーデンズは今まで行ったスコットランドのガーデンでは、一番来場者が多かったのが印象的でした。

ポートモア・ガーデンズの歴史

ゲートから車を停める駐車場まで行くと、ポートモア・ガーデンズの大きな邸宅が見えて来ます。ここが個人の家!?と驚くほどの大きさ。

こちらの邸宅、通称ポートモア・ハウスは、1740年ごろにこの土地を購入し、邸宅の基盤を築いたポートモア伯爵、ディヴィッド・コリヤー卿にちなんで、その名が付けられたそう。

1798年に、ポートモアに以前存在した邸宅、森林、農場や畑といった敷地はアレクサンダー・マッケンジーによって購入されました。

数年後にそこを継承した彼の息子であるコリン・マッケンジーによって修復、改装の計画が立てられました。彼の時代には現在の庭園の基礎となる改築が行われています。

なお、コリン・マッケンジーは以前ご紹介したアボッツフォード・ハウスの持ち主であるウォルター・スコットの友人であり、弁護士として活躍し、また作家としてもその名を残しています。ガーデンの歴史を探っていくと、思わぬところで人や場所などがリンクしているのが分かります。

1830年にコリン・マッケンジーの息子、ウィリアム・フォーブス・マッケンジーがこの土地を引き継ぎ、1850年に現在もその姿を見せるポートモア・ハウスの建設が始まりました。

設計を受け持ったのはエディンバラのボーディング・スクールであるフェテス・カレッジをデザインした著名な建築家、ディヴィッド・ブライスです。

ブライスは全国の大邸宅の建設と改築においても成功している事で有名であり、ポートモア・ハウスはジャコビアン様式の赤い砂岩を使った邸宅として完成しました。

1860年代にウィリアム・フォーブス・マッケンジーが亡くなった後は息子のコリン・ジェームズ・マッケンジーが引き継ぎますが、その30年後にマッケンジー一家はポートモアの邸宅や土地を売却しています。

第一次世界大戦が始まる前に、ポートモアの邸宅と土地はロバートソン家が購入し、そして再び売却。
1970年代初期に、現在の所有者であるディヴィッド&クリッシー・リード夫妻に引き継がれています。

殆ど放置されていた状態であった邸宅の改装を始めたリード夫妻ですが、邸宅は一度1986年に起きた火災で半分が崩壊してしまったそう。

しかしそこからまた邸宅を修復したリード夫妻は、滅びていた状態の庭園を現在のように見事に蘇らせ、クラシカルでエレガントな、滞在する人を魅了してやまない、色鮮やかな空間へと造り変えたのです。

ポートモアの庭園へ

ポートモア・ハウスを通り過ぎ、新たに木々が植栽されているエリアを抜けると、庭園への入り口になります。

左右に低木が植えられた小道を通って行くと、森林に取り囲まれた、ウォールド・ガーデンの壁が見えて来ます。

ポートモア・ガーデンズは、個人の住む家の庭としては非常に広大であり、森林や農場として使われているポートモアの敷地全体は500エーカー(2,032,400㎡)もあります。

しかしこのウォールド・ガーデン自体は、マナーハウスやカントリーハウスなどのガーデンの規模に比べると小さく、1.5エーカー(約6070㎡)ほどだそう。

ウォールド・ガーデンは邸宅の北側に位置し、入り口から奥に向かってゆるやかな傾斜を描いています。

ポートモア・ガーデンズの一番の見どころは、このクラシカルなウォールド・ガーデンで、周囲を壁が囲み、内部にはさらに『ROOM』と呼ばれるエリア分けがされており、それぞれに違う表情を持った庭を楽しむ事が出来ます。

個人の庭という事でパンフレットなどは販売していないのですが、庭園の地図はガーデンの入り口に飾られており、またガーデナーさんが入場料を集めに来た際にもらう事が出来ます。

初めに邸宅の改装をし、それからリード夫妻が庭園の修復を始めた際には、今は目を見張るほど美しくなっているこの庭は、すっかり荒れ果てた状態であったそうです。

以前存在したというヴィクトリア朝のフォーマル式のガーデンはその姿を消し、ウォールド・ガーデンには放置されていた木々が茂り、グラスハウスは修復不可能で崩壊したありさまでした。

リード夫妻のガーデンの修復は1987年に始まりました。

伝統的なウォールド・ガーデンを継承し、そこへ現代的な要素を取り入れ、クラシックとモダンなセンスを見事にブレンドし、エレガントな庭を再び造り出したのです。

今日存在する非の打ちどころがないような、素晴らしく完成されたガーデンを見ると信じられない事ですが、ガーデニングの経験は全くなかったというクリッシー・リード夫人。

彼女は書物や雑誌、友人からのアドバイスを受け、ガーデナーとともに庭造りに着手したそうです。
まず初めに、庭のゲートから伸びた中央の道の両脇に、ボーダー・ガーデンを造る事から庭造りが始まったのでした。

華やかさがいっぱい!ボーダー・ガーデン

ポートモア・ガーデンズで最も印象に残ったのが、色鮮やかなボーダー・ガーデンです。
かつて存在し、崩壊してしまったグラスハウスは、ヴィクトリア女王とウェールズ王子を顧客に持っていたというエディンバラの著名な温室デザイナー、マッケンジー&モンクールによるものでした。

今あるボーダー・ガーデンでは、新たに造られたグラスハウスに向かって、ゲートから続いている道の両脇を植物たちが輝くように彩っています。

このボーダー・ガーデンは中央で交差する、ウォールド・ガーデンの左右を横切るライム・ウォークのため、一旦そこで中断し、再びグラスハウスまでボーダー・ガーデンが始まるレイアウトとなっています。

長く続くボーダー・ガーデンも魅力的ですが、ポートモア・ガーデンズのように一度中央で途切れるレイアウトは、ボーダー・ガーデンに美しいリズムが生まれるという、新たな発見がありました。

美しい植栽が特徴のポタジェ

ポートモア・ガーデンズでボーダー・ガーデンとともに記憶に残っているのが、キッチン・ガーデン、いわゆるポタジェの存在です。

グラスハウスを正面にして右手奥のエリアに造られているポートモア・ガーデンズのポタジェは、野菜や果実を育てる、という範疇を超え、レイアウト、植栽のデザインともに素晴らしいものでした。

ポタジェの内部には大きめの敷石を使った小道があり、そこを通って行けるようになっており、周囲にはガーデン内の緑に映える色とりどりの花が植えられていました。

ポタジェ内部を歩いていると、どこで立ち止まって周囲を見ても、本当に絵になる風景。オベリスクや植木鉢などを使い、高低差を生み出した素晴らしいバランスで植栽がされていました。

ポタジェの奥手に見える、グラスハウスの横に位置しているのが、来場者が休憩出来るエリアです。この裏手は、セルフサービスで紅茶が飲める場所となっています。

リード夫人がデザインし、地元の職人さんが造られたというエレガントなパーゴラが、素敵なフォーカルポイントになっていました。

高低差を生かしたパルテール・ガーデン

ボーダー・ガーデンを挟んでポタジェの反対側にあるエリアは、小さく可愛い、そして静寂な雰囲気を持つパルテール・ガーデンが。

こちらもやはり、花壇の中にトピアリーを配置し、高低差を生かした作りになっています。

真っ直ぐなラインの敷地に、同じサイズの植物を植えただけでは、見た目にも平凡な風景になってしまいがちですが、そのような場所で効果的なレイアウトと言えるのが、庭の中に垣根を壁のように見立ててシンメトリーに配置し、垣根の内部に植物を植えるパルテールとなります。

パルテール・ガーデンは、庭にドラマティックな景観を生み出しますが、ポートモア・ガーデンズはそこへ更に、エクステリアや、あるいは植物の横幅や背丈のサイズを生かしたデザイン、そしてレイアウトが特徴的でした。

エレガントなフルーツケージ

パルテール・ガーデンと通路を挟んで向かい側、ウォールド・ガーデンの壁の前に見えるのが、フルーツケージです。

フルーツの果実は鳥が食べてしまうため、それを避けるために造られたものがフルーツケージですが、ポートモア・ガーデンズのフルーツケージは庭園のエレガントさを損なわないよう、優雅なデザインのものを使っています。

トップの緩やかな曲線を描いた屋根の部分は、パルテール・ガーデンに植えられたトピアリーの上部に付いている飾りと同じカラー。細かいところまで考えられたデザインでした!

引きのデザインを生かしたローズ・ガーデン

エレガントなガーデンには欠かせない存在なのがローズ・ガーデン。ポートモア・ガーデンズのローズ・ガーデンは、ゲートから入ってすぐにある、ロングウォークを左手に歩くと見えて来ます。

ローズ・ガーデンの大きさはパルテール・ガーデンと同じサイズなのですが、とても大きく感じます。それはおそらく、ローズ・ガーデン内の美しいレイアウトとデザインによるものなのではないでしょうか。

どこのローズ・ガーデンでも主役はもちろんバラとなりますが、ポートモア・ガーデンズのローズ・ガーデンでは、そこまで植えられているバラの数は多くありません。また種類もカラーも限られたものでした。

しかしローズ・ガーデンの中のエリアを細かく区切り、さらにオベリスクや鎖をバランス良く使い、気品ある石像を置いて、なんとも上品で洗練された雰囲気がいっぱい。

バラの数が多く植えられていたり、あるいはたくさんの種類や多くのカラーを使ったローズ・ガーデンも華やかな雰囲気に満ちあふれていますが、ポートモア・ガーデンズは敢えてバラの数や種類、そしてカラーを抑え、レイアウトや植栽法の良さが生きているのが分かるローズ・ガーデンでした

整然さが美しい、ライム・ウォーク

全体のかたちはシンプルな長方形となっているポートモア・ガーデンズのウォールド・ガーデンですが、入り口からグラスハウスまで中央を渡る道がボーダー・ガーデンとなっており、そこに交差している道がライム・ウォークとなります。

ポートモア・ガーデンズは入り口から奥に向かって昇って行くような、緩やかに傾斜している土地なのですが、このライム・ウォークを見ると、中央部分も僅かに沈んでいるのが分かります。

このアップダウンのある敷地に丁寧に手入れされたライムツリーが並んだ道は、美しく刈り込まれた芝生とのコントラストがとても見事で、ウォールド・ガーデン内部の優美な通り道となっています。

洗練された美しさを誇る、ポートモア・ガーデンズ

個人の庭としては非常に大きなものとなりますが、マナーハウスやカントリーハウスの中では小さい部類に入る、ポートモア・ガーデンズのウォールド・ガーデン。

しかし内部は驚くほど洗練された、見どころいっぱいの庭園でした。次回のレポートではポートモア・ガーデンズのその他のエリア、植栽法やカラーリング、エクステリアなどをご紹介します!