イングリッシュガーデンから学ぶ、基本テクニック ~ ディスプレイ編 ~

ガーデニングは植物を植え、その成長する姿を鑑賞するだけでなく、雑貨などを取り入れてディスプレイを楽しめるところも大きなポイントです。今回はガーデナーであればいつも使う必須アイテムである植木鉢を使って、庭でどうディスプレイするのかを、実際のイングリッシュガーデンをもとにご紹介します。

イングリッシュガーデンをお手本に、植木鉢のディスプレイ

一般公開されているイングリッシュガーデンのサイズは大きく、通常の庭づくりではディスプレイについては参考にならないのでは?と思う方もいるかもしれません。

確かにサイズの規模は比べることができないほどの大きさを誇るイングリッシュガーデンですが、一般家庭の庭でも、イングリッシュガーデンと同じように使われているアイテムが植木鉢です。イングリッシュガーデンでは、この植木鉢を使って楽しいディスプレイをしているところがたくさん!

花を育てるときには欠かせない植木鉢は手に入りやすく、またデザインも素材も豊富。あまりにも身近にあり過ぎて気付かないこともありますが、立派にディスプレイに役立ってくれる心強いアイテムです。

今回は実際のイングリッシュガーデンを参考に、自宅の庭にすぐに取り入れることができる、植木鉢のディスプレイをご紹介します。

1.植木鉢のデザインにこだわる

植木鉢を購入するときに気を付けることはなんでしょうか?大きさ、素材、値段……考えなくてはならないことは色々ありますが、ディスプレイの一部として考えるのなら、植木鉢そのもののデザインにもこだわりましょう。

特に植木鉢をあまり多く置くことができない場所など、植木鉢も花とともに主役になるのであれば、フォルム、デザインはよく吟味して。

イングリッシュガーデンと聞くと、クラシカルでデコラティブ、または大きなサイズの植木鉢を想像しがちですが、もちろんすぐにでも手に入りそうなサイズで、シンプルなデザインのものも多く使われています。それをどうディスプレイするかによって、庭の印象が大きく変わってくるのです。

たとえば上の写真はスコットランドのボーダーズ・エリアに位置するケールジー・ガーデンにあるコテッジの前になります。こちらはフロントガーデンがないために、ドアの目の前に植木鉢を置いてその華やかな雰囲気を楽しんでいるようでした。

このドアの前に置かれたふたつの植木鉢ですが、シンプルでありながらちょっぴり凝った、スマートなデザインは人目を引くもの。

またシンメトリーに置く方法を取り、そして左右どちらも同じデザインのものを使ったことで、まとまりのある調和が生まれています。

こちらはイギリスはケント州に位置するパシュリー・マナー・ガーデンのもの。階段の途中に置かれた植木鉢ですが、デザインはシンプルそのもの、でもアンティーク風の植木鉢は歴史あるレンガでできた階段と、また植えられた花ともぴったりな雰囲気です。

このように、植木鉢は植物を育てる容器としてだけでなく、選んだデザインで庭の印象を変えることができるほど、とても大切な役割を果たしてくれます。また、デザインはシンプルなものでも充分に庭を引き立てる効果を持っています。

重要なポイントは目指したい庭のイメージを明確にし、どんな花を植えるか、どこに置くかということ。そしてそれに合った植木鉢を選ぶことを忘れないようにしましょう。

2.植木鉢をどうディスプレイする?

好みの植木鉢を見つけたら、それをどうディスプレイするかはセンスの見せどころとなります。
もし庭があまり大きなサイズでなく、植物を植えるスペースがあまりないのであれば、棚を使ってたくさんの植木鉢を並べてみるのもおすすめです。

上の写真はパシュリー・マナー・ガーデンの温室となりますが、こちらは木材を使い、3段になった階段型のシンプルなシェルフに、異なるサイズの植木鉢を並べています。

植木鉢はそれぞれ大きさこそ違うものの、テラコッタの素材でアンティークテイストのもので揃えて、統一感のあるものに。

こうして見ると、わずか3段のシェルフでも、たくさんの植木鉢を置くことができるのが分かります。花期の違う植物を植えて常に花のある景色を楽しんだり、花の色を揃えてみたりと、思い思いに楽しむことができますね。

そしてこちらは同じくパシュリー・マナー・ガーデンの温室内ですが、こちらは1段のシェルフを使い、棚と床に植木鉢をディスプレイしたもの。

これらを見ても分かるように、棚の横幅や高さのサイズ、また置く植木鉢の数や花の種類で雰囲気は大きく変わります。

自宅の庭で、設置する場所に合わせて棚のサイズを選び、またシェルフの素材も庭の雰囲気に合ったものを選びましょう。シェルフを使うのは最も簡単で、誰でもすぐに庭に取り入れることのできる植木鉢のディスプレイ法です。

3.個性的な植木鉢を選んでみる

植木鉢とひと口に言っても、そのデザインは多種多様に富んでいます。もちろん植物を育てるのが第一目的となりますが、ディスプレイとしても活用するのであれば、個性的な植木鉢を選んで、インパクトのある庭のシーンづくりに利用してみてはいかがでしょう。

上の写真はシシングハースト・カースル・ガーデンになります。脚部は細く、高さのあるデザインで、ひと目見たら忘れられないほどの存在感で、強い印象を与えています。

これはシシングハースト・カースル・ガーデンを造り上げたヴィタ・サックヴィル=ウェストが、荒れ果てたシシングハーストに越して来た際に、家の中に取り残されていた多くのがらくたの中から見つけたものだそうです。

こちらは植木鉢として使われているトップの部分は桶、もしくはシンクとして使われていたものであり、脚部は家のレンガの壁に合わせて作られたのでしょう。

装飾過多のものや、最新のきらびやかなものを嫌い、古く歴史あるものを好んでいたヴィタは、かつて使われていた桶やシンクはガーデン用のコンテナとして非常に有益であると書き残しています。

ヴィタに限らず、英国の人々は古いものを活用するのが上手です。よく家庭のガーデンで見かけるのが、使わなくなった古いバスタブやシンクを植木鉢に再利用する方法。

ガーデンの中では新たに植木鉢に生まれ変わったバスタブやシンクが素敵なフォーカルポイントとなり、庭に味わい深い風情を生み出しているのです。

また、スコットランドのガーデンでよく見かけるのが、ウィスキーの樽を再利用して植木鉢にしたものです。そのまま使って高さを強調し、庭に高低差を生み出したり、半分に切ったりとさまざまな使い方をしています。

樽は木で作られているので、そのナチュラルな質感はガーデンにはぴったり。花との相性もとても良く、樽を植木鉢に活用している庭は素朴な雰囲気に満ちあふれていて、個性のある庭づくりに役立っているのが分かります。

一般の家庭ではなかなか古い桶やシンクを見つけることは難しいと思いますが、コンテナに脚部を付けたり、植木鉢を高さのある台の上などに置いて、オリジナルな庭づくりに生かしてみてはどうでしょう。

あるいはヴィタのように、使われなくなった古いアイテムを再利用して、オリジナルな植木鉢を作ってみるのも素敵です。それは世界にひとつだけの植木鉢であり、庭を美しく彩ってくれるに違いありません。

個性的な植木鉢はその人のセンスを表すものであり、また自分で作り上げる庭にきっと役立ってくれるでしょう。

4.植木鉢の見せ場を作る

せっかくお気に入りの植木鉢を見つけたら、それを生かしたディスプレイをしたいもの。また、さまざまなデザインから選べる植木鉢は、たとえひとつだけでも、置く場所、あるいは飾り方によって、庭の中でフォーカルポイントになることが可能です。

たとえば上の写真はシシングハースト・カースル・ガーデンのものになります。高さのあるクラシカルな台に背丈の低いサイズの植木鉢を置いています。
植木鉢自体は本当にシンプルなものですが、そのサイズにぴったり合った植物が周囲にしっくり溶け込んで、とても可愛らしいシーンを演出していました。

こちらはスコットニー・カースルにあるハーブガーデン。中央には大きな植木鉢を置き、周囲はそれに合わせた円形のハーブガーデンが造られていました。

一般の庭ではスコットニー・カースル・ガーデンほどの大きいガーデンは造ることは難しいとしても、レイアウトの中心に大きなサイズの植木鉢を置き、取り囲むように花壇を作るのもひとつのアイデアですね。

せっかく選んだお気に入りの植木鉢。ただ並べて置いておくだけではもったいないと感じることも。その存在を生かすように庭の中で配置すれば、植物と一緒に庭の素敵な主役として輝いてくれるでしょう。

5.花壇の中に植木鉢を置く

植木鉢は単品で置いても、あるいはたくさん並べてもガーデンでのディスプレイに活躍してくれるアイテムですが、花壇の中に置いてみるのも、また違った景観を作ることができます。

花壇は花を植える場所、という考えからちょっと離れて、植木鉢を中に置いて花壇の中のアクセントにしたり、あるいは高さを出して花が咲く風景にリズムを出してみたりと、さまざまな効果があるのです。

たとえばこちらはスコットランドのポートモア・ガーデンズ内にあるキッチンガーデンになります。キッチンガーデンの特徴でもある、中央のエリアには野菜を植えて、その周囲を花壇で囲んでいるという基本のレイアウト。

ポートモア・ガーデンズではこの花壇の中に、大きめサイズの植木鉢をところどころに置いて高低差を生み出し、ドラマティックな景色を作り上げています。

庭の花壇がまっすぐなラインを持つ場合、花を植えてももの足りなく感じてしまうことがありますよね。そんな場合に花壇の内部に植木鉢を置くのは、メリハリを利かせるのに役立つ方法。直線の花壇を持つ方には、ぜひ試してみて欲しいアイデアです。

そして植木鉢の使い方でたくさんヒントになるアイデアで満ちているのが、ロンドンからも日帰りで行くことのできる観光スポットのひとつ、ハンプトンコート・パレスのガーデンです。

ここでは植木鉢を利用しているさまざまなディスプレイを楽しむことができます。こんなところに植木鉢が!とびっくりしたり、あるいは植木鉢ってこんな風に使えるの?とたくさんの驚きと発見がありました。

上の写真はハンプトンコート・パレスのローズガーデンの壁に沿った花壇のエリアです。
最初に見た瞬間は、植木鉢が倒れているの?と誤解してしまいそうなのですが、この植木鉢を倒し、土があふれているところがひとつのディスプレイとなっているのです。

こちらも同じくハンプトンコート・パレスにあるキッチンガーデンの花壇です。
こちらの花壇の中にも植木鉢を置き、さらにまた倒れたポーズでディスプレイ。土が流れ出るような景観が、他ではあまり見ることのできない植物の表情を生み出しています。

さらにハンプトンコート・パレスでは、植物の名前を記すラベルの代わりに、植木鉢が使われていたのです。

通常は枝の根元にラベルを付けたり、あるいは木やプラスチックの札に名前を書いて土に刺したり、という方法が多いと思うのですが、小さな植木鉢を利用するのはなんともユニーク。

テラコッタの植木鉢だからもちろん花壇にはぴったりの雰囲気で、しかも可愛らしいムードで満ちあふれていました。

さらには植木鉢の中に、ラベル用の小さな植木鉢が!テラコッタの素材の良さが良く分かる、さらに遊び心も入った素敵なアイデア。

思わず笑みがもれてしまう、そして土や花との相性が抜群である植木鉢の良さをとことん生かしたディスプレイだと感心してしまいました。

キッチンガーデンでは野菜を食べてしまう鳥は大敵。日本では古くはカカシが使われていましたが、ここハンプトンコート・パレスでは鳥除け用にも使われていた植木鉢。見ているだけで楽しくなってしまうような光景でした。

ハンプトンコート・パレスのガーデンは歴史は古いものですが、新しい試みがいっぱいで、しかも自宅の庭に取り入れることができるようなものもたくさんあったのが印象的でした。

植木鉢をディスプレイに生かして、個性のある庭づくり

ガーデニングをする方にとっては、必ず使うものである植木鉢。植物を育てるためになくてはならないアイテムですが、イングリッシュガーデンを見るとそれ以外にもさまざまなアイデアでディスプレイに役立ってくれるのが分かります。

ガーデニングをする際にはあまりにも身近なもののため、手ごろな値段だったから、丁度良いサイズだったから……という理由で購入してしまいがちでもありますよね。

けれど庭にメリハリを利かせたり、あるいは新たな景観を生み出すディスプレイにも多いに生かすことができるのです。次に植木鉢を購入するときは、ぜひディスプレイを意識して選んでみてはどうでしょうか。