イングリッシュ・ガーデンを巡る旅~ハンプトンコート・パレスを訪ねて~

ロンドン中心地からも行き来しやすい場所にあるハンプトンコート・パレス。ロンドンでの主要観光名所にもなっている場所ですが、こちらには一日かけて楽しめる広大なガーデンがあります。長い歴史を持ち、さまざまな異なるガーデンを眺める事の出来るハンプトンコート・パレスのレポートをお届けします!

イギリスの郊外にあるガーデンは、最寄駅から離れている事が多いのですが、ハンプトンコート・パレスは駅のすぐそば、という嬉しい立地にあります。

最寄り駅であるハンプトンコート駅を降りてすぐ右手に、テムズ川が目に入ります。テムズ川を渡る橋の途中でパレスの一部分が見えてきて、期待に胸がワクワク。
駅から僅か10分もかからず到着出来る、とても便利なエリアにあるのです。

駅にあるハンプトンコート・パレスの場所を指す看板には各国の言葉で説明があり、もちろん日本語の案内も。
世界各国から、たくさんの観光客の方が訪れているのが分かります。

門を入ると左手にチケットオフィスとショップがあり、こちらでチケットやガイドブックなどを購入出来ます。

チケットは滞在場所や予約方法によって料金が変わるので、最後にご紹介しているウェブサイトで、事前に調べておくのをおすすめします。

滞在した際チケットオフィスのスタッフの方に、ガーデンの写真を上から撮りたい、あるいはどこの場所ならガーデンが良く見えるか、などを質問すると、内部の地図とともに非常に細かく説明をして頂きました。

とても親切に、そしてすごく丁寧に答えて下さって感動でした。パレス内部やガーデンでの滞在場所についてなど、質問があったら是非スタッフの方に聞いてみましょう!

ハンプトンコート・パレスとは

ハンプトンコート・パレスは、12世紀半ばよりエルサレムの聖ヨハネ騎士団の荘園として使われていましたが、16世紀になるとヘンリー7世の侍従長であったサー・ジャイルズ・ドウブニ―の住居となっていました。

その後の1514年、ハンプトンコート・パレスはヨーク大司教であり、王の主任行使として、実質的に政治と教会のどちらもを手中に収めていたと言われる、トーマス・ウルジーの手に渡ります。

ウルジーは7年の歳月をかけ、ハンプトンコート・パレスの基礎を作り上げました。その壮大さは当時英国一とも呼ばれていたそうです。

トーマス・ウルジーを目にかけていたヘンリー8世は、6人の后を持った王としてもその名を知られていますが、この壮大なハンプトンコート・パレスを持った事で、ウルジーに嫉妬していたと言われています。

また、ヘンリー8世はその当時の妻、キャサリン・オブ・アラゴンと別れ、アン・ブーリンを妻に迎える為に離婚調停を申し立てていたのですが、この承認を得られなかった為に王からの信頼が揺らぎつつあったのを感じ、1525年、トーマス・ウルジーはハンプトンコート・パレスを王に差し出します。
しかしその甲斐もなく1529年、離婚調停が上手くいかないままヘンリー8世、そしてアン・ブーリンの怒りを買い、ウルジーは大法官の職を奪われ、全ての官位、財産をも没収され、失脚してしまいます。

ハンプトンコート・パレスを手にしたヘンリー8世は宮殿を改装し、大ホールとロイヤルテニスコートを付け加えています。

その後、共同政治を行ったウィリアム3世とメアリー2世の時代にはヘンリー8世が建てた建物を大ホールを残して取り壊し、その時代の流行りであったバロック様式の巨大な宮殿に建て替える計画を立てました。

南側に建てられた新しい練は、セント・ポール大聖堂の再建でもその名を広く知られているクリストファー・レンが監督したものとなります。
しかし1694年、メアリー2世が天然痘のためケンジントン・パレスで死去すると、ウィリアム3世は改装工事の意欲をなくしてしまいます。
また、ウィリアム3世もハンプトンコートでの落馬が原因で命を落としてしまいます。

その後ジョージ2世が王妃キャロラインと共にハンプトンコート・パレスの改装を進めますが、このジョージ2世がハンプトンコート・パレスに住む最後の王となりました。

1760年以降、王室はロンドンの宮殿に移り、1838年にヴィクトリア女王はハンプトンコート・パレスを一般に公開しています。

ローズガーデン

500年以上もの歴史を持つハンプトンコート・パレスは、宮殿そのものも見どころがたくさんあるのですが、幾つもの異なる表情を持つガーデンも魅力がいっぱいです。

チケットオフィスのすぐそばに配置されているローズガーデンは、近付いただけで香しいバラの香りを感じる事が出来る場所。

ハンプトンコート・パレスへの滞在は、バラのシーズンを強くおすすめします! 広い敷地に咲き誇るたくさんのバラを堪能する事が出来ます。

ローズガーデンがある場所はかつて、ヘンリー8世が馬術試合を楽しむために作られた場所でした。
1690年、ウィリアム3世とメアリー2世によってここはウォールド・キッチンガーデンに改築しています。

今あるローズガーデンは増えつつあった来場者を楽しませるため、第一次世界大戦後の1924年に作られ、さまざまなオールドローズが植えられました。

1937年にガーデナーたちが現在のフォーマルなレイアウトを造り、多くのハイブリッドローズを植えたのだとか。
なお、キッチンガーデンはローズガーデンの場所を得るために縮小されたそうです。

様々な色彩を誇るローズガーデンはガーデンの壁に沿い、あるいは中央に植えられています。
その中にバラの美しさを引き立てる銅像が配置されていますが、春と夏を表しているという大理石の銅像は、1869年、ロバート・ジャクソンによって作られたもの。

これらは1995年にプリヴィ・ガーデンで復元されたもので、1906年に作られたフランシス・ダーウェント・ウッドの『Abundance』と一緒にこの場所へ移動させられたそうです。

バラの中に静かに佇む銅像が、ローズガーデンのエレガンスさを一層際立たせているのが分かります。

プリヴィ・ガーデン

ハンプトンコート・パレスにある数多くのガーデンの中でも、その壮大さと美しさに圧倒されるに違いないのが、プリヴィ・ガーデンではないでしょうか。

Privy Garden とはプライベート・ガーデンを意味し、最初はヘンリー8世によって1530年から1538年に建設されています。

オリジナルのデザインはふたつのエリアに分かれ、ひとつは真鍮の日時計と彫像が配置されたエリア、もうひとつはボーリング場や宴会場、ウォーター・ギャラリーのあるエリアで、大きさは61m×91mほどのサイズだったそうです。

エリザベス1世の時代、1599年から1659年の間に、庭園のレイアウトは、4つのエリア変更されています。
その後、ウィリアム3世とメアリー2世の時代には、ヘンリー8世のルネッサンス庭園から、より洗練されていると思われたバロック様式に再建し始めています。

ウォーター・ギャラリーは解体され、プリヴィ・ガーデンは3エーカー(12140㎡)の面積を超える現在のサイズにまで拡大されました。

1700年までにウィリアム3世とメアリー2世のため、キングス&クイーンズのアパートメントの再建が完了しました。

ウィリアム3世のキングスアパートメントの南側に、このプリヴィ・ガーデンが配置されています。このプリヴィ・ガーデンは、彼のキングスアパートメントを完璧にするために造られたと言われています。

上の写真はキングスアパートメントから眺めたプリヴィ・ガーデンとなります。見事なまでに整えられたその堂々たる景観には圧倒されてしまうほど。

プリヴィ・ガーデン、つまりプライベート・ガーデンはその名の通り、王と彼のゲストだけしか使う事を許されませんでした。
王のプライベートな謁見室からの最も素晴らしい眺めは、王が定めた重要と思われる人々だけに与えられた特権でした。
時代を経た今だからこそ、この眺めを見る事が出来ますが、その景観が過去と同じものだと思うと何だか不思議な感じがしてしまいます。

非常に豪奢なプリヴィ・ガーデンですが、18世紀の半ばを過ぎると変更を余儀なくされます。その理由はウィリアム3世の時代にデザインされたバロック様式が、その後の時代の流行からは外れてしまったからだそう。

このプリヴィ・ガーデンは、宮殿の修復作業中に4年の年月をかけて1995年に復元されています。

今見る事の出来るプリヴィ・ガーデンは、ウィリアム3世の時代の1702年に設計されたプリヴィ・ガーデンのレイアウトや、ガーデンについての多くの記録が発見されたため、非常に正確に復元されているそう。

何故ガーデンの記録が多くあったのかと言うと、ウィリアム3世はガーデンの建築が完全に終わる前に亡くなってしまい、庭師や労働者たちは賃金が支払われない事を恐れ、彼らの仕事を出来る限り詳細に残していたのです。

残念ながら、多くの庭師たちの賃金は、その後を引き継いだメアリー2世の妹のアン女王から完全に支払われる事はなかったそうです。

ボードウォークとフラワーボーダー

ウィリアム3世とメアリー2世の時代を経て、ハンプトンコート・パレスに住んでいたジョージ2世の王妃であったクイーン・キャロラインは非常にガーデニングを愛した人として知られています。

彼女はボードウォークに沿って半マイル(約804メートル)に渡り、フラワーボーダーを作りました。

現在では、イギリスで最も長い、たくさんの種類の花が植えられたフラワーボーダーとなっています。
様々な花が咲き乱れるこのフラワーボーダーは、終わりが見えないほど長いもので、多くの花を眺めながらゆっくりと散策を楽しむ事が出来ます。

ポンド・ガーデン

こちらの通常の地面よりも低い位置に造られたポンド・ガーデンは、元々はヘンリー8世の為に造られた池がありました。

奥に見られるヴィーナスの銅像は、ハンプトンコート・パレスのハウスキーパーであったミセス・グランティーズの私室で発見されています。

極端に潔癖で厳しかったと言われる彼女は、絵画や銅像など、一般に見せるにはふさわしくないと感じるものを、そこへ隠していたのだそう。彼女の私室は『ミセス・グランティーズ・ギャラリー』と呼ばれたのだとか。

現在ではポンド・ガーデンは春には球根の花が芽吹き、夏には鮮やかな花が花壇に咲き誇るガーデンとなっています。

グレイト・ヴァイン

この場所に植えられているブドウは世界で最も古く、そして世界で一番大きい事で、グレイト・ヴァイン、『偉大なブドウ』としてその名を広く知られています。

このブドウは1768年、ジョージ3世のために、ランスロット・”ケイパビリティ”・ブラウンによって植えられたと言われています。

1800年にはブドウの胴体の周囲は330ミリメートルでしたが、1887年には既に1.2メートルを超えていたそうで、現在では3.65メートル、最長の枝は36メートル以上と言われています。

一般の人々は、19世紀からこのグレイト・ヴァインを見る事が出来たそうで、長い行列を緩和させるのに、1904~6年に、一般公開のための小屋として、グラスハウスが建てられました。

現在のブドウ用の建物(VIne house )は、1964年に建てられました。
ブドウは古い建築物と絡み合っていたので、古いグラスフレームのまわりに新しいグラスハウスを建てなければならなかったそうです。
1920年まで、ハンプトンコートのブドウは王室のものと厳しく定められていましたが、今では毎年9月にハンプトンコートパレスのショップで売られ、かつての王室のブドウを楽しむ事が出来ます。
収穫量は220から320キログラムと言われ、世界最大のブドウにふさわしい量ですね。9月にハンプトンコート・パレスに訪れる機会があったら、かつては王室専用だったブドウを食べてみたいと思います!

キッチン・ガーデン

英国のマナーハウスやパレスのガーデンを訪ねる際に、花の咲き乱れるガーデンを眺めるのは最大の魅力と言えますが、必ずと言っていいほどあるキッチン・ガーデンを鑑賞するのも楽しみのひとつです。

ハンプトンコート・パレスのキッチン・ガーデンは、ますその大きさに驚かされます。
それもそのはず、ハンプトンコートのキッチン・ガーデンは、ヨーロッパの中でも最も壮大なキッチン・ガーデンのひとつと言われているのです。

ハンプトンコート・パレスのキッチン・ガーデンは、ウィリアム3世とメアリー2世の宮廷のために設立され、宮廷のキッチンへ新鮮な野菜、果物、ハーブが提供されました。
異国のものも含む、たくさんの野菜や果物の品種が育てられていたそうです。

ハンプトンコート・パレスのキッチン・ガーデンは、1760年、王室がハンプトンコート・パレスを離れ、ロンドンに住居を変えたことで衰退期に入りました。

1841年、ヴィクトリア女王はキッチン・ガーデンを維持していく事を諦めて、近隣の果物栽培者たちに貸し出します。
キッチン・ガーデンは1925年、最終的に、芝生と装飾的なデザインを残すガーデンとなってしまったそうです。

しかし2014年に、6年に渡る詳細な歴史的、考古学的な研究のあと、キッチン・ガーデンは新しく生まれ変わり、オープンしています。

周囲を廻る花壇は1736年に造られたレイアウトを元に再設計され、ガーデンでは18~19世紀にここで育てられていたという品種を多く育てています。

キッチンガーデンを散策すると、どのような野菜を育てているのかを知るのも楽しいのですが、壁の周囲に配置されたカラフルな花壇も心躍るもの。

ハンプトンコート・パレスのキッチン・ガーデンの花壇は色鮮やかで本当に美しく、見ているだけで目の保養になりました!

かつては宮廷のテーブルを飾った野菜やハーブ、果物が作られたキッチン・ガーデンですが、今ではここで収穫した野菜などは、6月から10月まで、その後は2週間おきにクリスマスまで、毎週火曜日に一般に販売されています。

残念ながら滞在した日にはまだ販売が行われていなかったのですが、次に来る時には必ず、王室の食卓に上ったという野菜やハーブが楽しめるシーズンに訪れようと思います!

ハンプトンコート・パレスへ行ってみよう!

ハンプトンコート・パレスの広大な庭園は、60エーカー(242811㎡=東京ドーム5.2個分)という大きさを誇り、さらに750エーカー(3048600㎡=東京ドーム65個分)の王立公園が存在しています。

ガーデナーの数は42人と言われ、それぞれ専門のチームを持ち、そのうちの6人は40年以上もハンプトンコート・パレスで働いているのだとか。

代々の居住者のドラマティックなヒストリー、そして長い歴史を持つ建築物と、様々な異なる表情で見る者を圧倒させるガーデンのあるハンプトンコート・パレス。
ロンドン滞在の際にはぜひ訪れてみませんか?

ハンプトンコート・パレスへの行き方

ハンプトンコート・パレスの最寄り駅は、Hampton Court (ハンプトンコート)となります。ロンドンのウォータールー駅から30分おきに列車が出ており、所要時間は40分弱で、駅からは徒歩で10分もかからない便利な場所にあります。

ウォータールー駅からハンプトンコート駅までは地下鉄ではなく、オーバーグラウンドとなるのですが、場所はZONE6となり、一日乗車券である1Day Travel Card が使用できるので、その後のロンドン観光にも便利です。

ハンプトンコート・パレスへの入場チケットは、事前にオンラインで予約するか、チケットオフィスで直接購入するか、あるいは迷路やマジックガーデンのみなど、細かく料金が分かれています。
詳しくは下記のウェブサイトで確認して下さいね。