イングリッシュガーデンを巡る旅 ~ パラム・ハウス&ガーデンズ Vol.2 ~

14世紀からの長い歴史を持ち、3つのファミリーによって引き継がれてきたパラム・ハウス。エリザベス朝時代のエレガントさを保ち続ける邸宅や内部の壮大なコレクションを始め、ガーデンにも見どころがいっぱいです。今回はクラシカルとモダンが美しく融合した、パラム・ハウスの庭園のレポートをお届けします。

パラム・ハウス&ガーデンズとは

パラム・ハウス&ガーデンズの始まりである、14世紀にウェストミンスター修道院が維持していた建物とその敷地。

ヘンリー8世の宗教改革によって大きく運命を変えたこの土地は、1922年にクライヴとアリシア・ピアソン夫妻が移り住んでから、また新たに生まれ変わります。

現在は所有者一家が邸宅内に住んでいるものの、大部分を慈善信託によって所有されているという敷地は全体で875エーカー、およそ東京ドーム約76個分という、ちょっと想像するのも難しいほどの大きな規模を誇ります。

その中で庭園は4エーカー、東京ドームで約0.3個分ですので、すべての土地の割合から考えると、あまり大きくはないのかな?と思いきや、歩いてみるとかなりの広さを感じます。

クラシカルなウォールドガーデンの内部は魅力あるエリアに分けられ、そのひとつひとつを楽しめる庭園です。植栽やカラーリング、レイアウトに新鮮な驚きと発見があり、そして感動を与えてくれる場所でした。

パラム・ハウスに訪れた際に驚かされたのが、まずその圧倒的な広さです。敷地の入り口から邸宅まではかなりの距離で、もしタクシーで来られるのでしたら、邸宅の入り口にあるチケット売り場まで送ってもらうことをおすすめします。

入り口から中に入るとコートヤード、中庭を通り抜け、ショップを通り越した先にガーデンへの入り口へと通じます。

そしてこのガーデンエントランスから、最初のガーデンが見える場所までもなかなかの距離があるのです。パラム・ハウス&ガーデンズは、すべてにおいて予想をはるかに超える場所でした。

パラム・ハウスの庭園の歴史

パラム・ハウスの庭園の記述はあまり残されておらず、しかしながら最初にこの敷地を維持していたウェストミンスター修道院の修道士たちにより、土地が耕作されていたのは間違いがないようです。

しかしその後にパラム・ハウスの持ち主であったパーマー家、そしてビショップ家の時代の庭についてはあまり分かっておらず、ただ、このガーデンの特徴である周囲をぐるりと取り囲んでいる壁が、18世紀に造られたことだけが記録されています。

その後、1920年代にピアソン夫妻が購入した際には邸宅と同じように、今は美しいガーデンも荒れ果てた状態であったそう。ピアソン夫妻は邸宅をエリザベス朝時代の優雅なものに改装しただけでなく、同じように庭園の修復にも取り掛かるのでした。

周囲になだらなか丘がある、丘陵地帯の裏側に位置しているパラム・ハウスの庭園の土壌は砂が多く含まれており酸性で、渇きは早いものの排水性に富み、作業がスムーズに行えるものでした。

また庭園の周囲を囲む壁は、動物の侵入や南西からの風を防いでくれたので、野菜や果実、そして植物は育てやすかったと言われています。

パラム・ハウス邸宅の改装のために監督に任命された建築家のヴィクター・ヒールは、敷地内にあるサマー・ハウスも請け負いました。

また、アメリカ人のガーデンデザイナーであるラニング・ローパーは、ピアソン夫妻の良き友人であったため、庭園の植栽のデザインに協力したそう。

ちなみにラニング・ローパーは以前ご紹介したスコットニー・カースルの持ち主であったクリストファー・ハッセーの友人でもありました。

ローパーは、1981年にチャールズ皇太子の依頼により、コッツウォルズにあるハイグローブ・ハウスのランドスケープ・ガーデナーの務めを果たしています。

姿を変え続けた、パラム・ハウスのガーデン

ピアソン夫妻がパラム・ハウスを手に入れた1920年代はようやく第一次世界大戦が終わった後でしたが、その後の1939年から第二次世界大戦が始まります。

当時、戦時中の多くの英国のカントリーハウスの庭園がそうであったように、パラム・ハウスの庭園もまた、庭園は野菜を育てる場所へと変わりました。

このガーデンに植栽されたのは花や植物たちから野菜へと変わり、時には何も植えられることはなく、あるいは芝生を張り巡らしたりと、歴史ある庭園に長い物語があるように、パラム・ハウスのガーデンもまた、何度もその姿を変えることとなったのです。

1980年代の初頭には、ガーデンデザイナーのピーター・コーツが植栽を請け負い、彼は独自の印象的なカラーリングをパラム・ハウスのガーデンにもたらしました。

彼は庭園内に数多く点在するボーダーに、中低木とハーブ、そして花々が織りなすコントラストを取り入れています。そして彼のデザインしたボーダーはそのスタイルを保ちながら発展を続けていきました。

ピアソン夫妻の時代には20人近くのガーデナーが働いていたそうですが、今は現在のオーナーであるレディ・エマ・バーナードとともに、ヘッド・ガーデナーのトム・ブラウンを筆頭に6人のガーデナー、そしてボランティアの人々によって運営されています。

現在のパラム・ハウスの庭園は、これまでに取り入れられたエッセンスを残しつつも、以前はウィズリー・ガーデンで働いていたというトム・ブラウンの才能が遺憾なく発揮された、素晴らしい植栽を堪能できる場所となっています。

エントランス・ボーダー

パラム・ハウスの庭園の入り口は、イストリア半島のライオンの像があるライオン・ゲートから始まります。その前方に広がるのはエントランス・ボーダーと呼ばれている場所です。

中央に道を作り、左右に奥行きをたっぷりとったエリアに、中低木とリーフ、そして花々を組み合わせた自然の風合いに満ちあふれたボーダーです。

ここはグリーンを中心に、野趣あふれる雰囲気でとてもナチュラルなイメージ。広大な敷地を誇るパラム・ハウスにふさわしく、自然味あふれるのびのびとした印象でした。

途中にショップへ通じる扉があるのですが、ここの植栽は特に素晴らしく、陰影がとてもロマンティックで記憶に残るゲートとなっていました。

ホワイト・ボーダー

パラム・ハウスのガーデンのレイアウトは非常にシンプルで、長い壁に囲まれたウォールドガーデン内に大きく分類して4つのエリアに分かれています。
その内部にいくつものボーダーがあるのですが、中でも最も印象に残ったのがホワイト・ボーダーです。この場所の植栽は、ガーデンデザイナーのラニング・ローパーへのオマージュとしてデザインされたそう。

ウォールドガーデンを取り囲む、18世紀から存在するという歴史ある壁を活かし、グリーン、シルバー、そしてホワイトで構成されたエレガントな植栽は、見ているだけでため息がでるほど美しいものでした。

多くの品種を持つ白い花でまとめたエリアは、イングリッシュガーデンの中でもよく見かけるものですが、ボーダーで取り入れるのは少し珍しいかもしれません。

パラム・ハウスのボーダーはたくさんの花々を楽しめるよう充分な奥行きと距離があり、このホワイト・ボーダーの周囲は芝生となっているために白と緑のコントラストがとてもエレガント。

少し古びたレンガと植物の色彩のコンビネーションも素晴らしいもので、いつまでも眺めていたいエリアでした。

ウェンディ・ハウス

ピアソン夫妻が3人の娘たちのために建築家のヴィクター・ヒールに依頼し、1928年に造られたコテッジがウェンディ・ハウスです。こちらの内部はすべて子ども用の大きさにできているそう。

今のオーナーであるレディ・エマ・バーナードは小さい頃、このウェンディ・ハウスに寝泊まりしたくてたまらなかったんだとか。

その後パラム・ハウスの持ち主となった彼女は、子どもたちがまだ小さかった頃はここに泊まり、ゴースト・ストーリーを話すことが夏の夜の催しだったそうです。
こんなに可愛らしい子ども用のコテッジが庭の中にあるなんて、本当に羨ましい限りです。

ノース・ボーダー

パラム・ハウスのカラーリングで意識されているキーワードは、『タペストリー』だそう。

幾つもの色を組み合わせ、そこから新たな表情を作り上げていく方法は、まさに室内を彩るタペストリーと同じ仕組みなのかもしれません。

このノース・ボーダーではホットカラーを使い、あでやかでありながらエレガントなシーンを作り上げていました。

そこでは個性的なリーフを多く取り入れ、また植栽では高低差を出してドラマティックな景観に。落ち着きのあるダークな色彩を多く取り入れ、とてもシックな印象です。

ホットカラーと言えばビタミンカラーのオレンジや黄色が多く使われる他のガーデンとは異なり、大人の雰囲気を持つ色合いをミックスさせて、オリジナルにまとめられたカラーリングが特徴でした。

ベジタブル・ガーデン

数多くの見どころがあるパラム・ハウスのガーデンですが、中でもインパクトがあったのがベジタブル・ガーデンです。

その名のとおり、野菜を作るのがメインであるエリアですが、パラム・ハウスではウォールドガーデンのひとつのエリアの中に、ヘッジで囲った花壇をいくつも作り、カラーやスタイルで分けています。

そこに植えられているのは野菜だけではなく、花やリーフを一緒に組み合わせ、大胆でありながら洗練されたカラーリングで、見る人の心を奪わずにはいられないほど圧倒的な景観を作り上げているのです。

高低差のある植物や色彩が異なるものを見事にミックスし、ダイナミックな植栽でひと際印象的だったベジタブル・ガーデン。ヘッドガーデナーのトム・ブラウンの才能にとても感銘を受けたエリアのひとつです。

カッティング・ボーダー

現在イギリスでブームとなっているのが、庭で花を鑑賞するだけでなく、切り花を育てる場所として造られているカッティング・ガーデンです。

大きな規模の庭でないとなかなかトライすることのできないものですが、広大な敷地を持つパラム・ハウスにはもちろんカッティング・ガーデンがありました。

しかしこのエリアは流行に合わせたのではなく、クライヴとアリシア・ピアソン夫妻が1948年にパラム・ハウスの一般公開を始めたときに、各部屋にフレッシュな花を飾りたいと思ったのが始まりなんだとか。

そしてパラム・ハウスに滞在したときこのカッティング・ボーダーには、いま大流行のダリアが満開に咲き誇っていました。

ここ数年、多くのイングリッシュガーデンではダリアを植栽していますが、これほどたくさんの品種が植えられていると圧巻です。あざやかでゴージャスなダリアが咲き乱れている姿は、華やかな色彩に圧倒されてしまいそうなほど。

パラム・ハウスの庭園のカッティング・ボーダーの規模は大きく、見ているだけで元気になれるたくさんのダリアの花たちはこの後も、きっとパラム・ハウスの邸宅の中で美しく周囲を彩っていることでしょう。

ローズ・ガーデン

とてもゆったりと造られているパラム・ハウスのガーデンの中では、小ぶりなサイズが何とも可愛らしかったのが、ローズ・ガーデンです。

2013年にヘッドガーデナーのトム・ブラウンによって新たにデザインされたというこのエリア。残念ながら滞在したときにはバラのシーズン真っただ中、というわけではなかったのですが、それでもバラたちが優雅に咲いている光景を見ることができました。

イングリッシュガーデンの中でも人気の高い花であるバラはメインとなることが多く、たくさんの庭園でローズ・ガーデンは大きなサイズで造られています。

その点パラム・ハウスのローズ・ガーデンは、そのコンパクトなサイズから普通の庭にも取り入れることのできるヒントに満ちたエリア。
特に庭の内部にカーブを描いた小道を配置したレイアウトや、他の花との組み合わせは、バラをメインにした庭づくりをしたい方にきっと参考になると思います。

グラスハウス

たくさんの魅力にあふれるパラム・ハウスのガーデンの中でも、最もお気に入りとなったのがグラスハウスです。

1923年に建てられたというグラスハウスは、エディンバラのマッケンジー&モンクール社のもの。今までにたくさんのイングリッシュガーデンに滞在してきましたが、その殆どのグラスハウスの建築を請け負っている会社です。

そしてグラスハウス内部はその持ち主や、植栽を請け負ったガーデンデザイナーによってさまざまな特色がありますが、パラム・ハウスのグラスハウスは本当に素晴らしかったです!

フェミニンな色彩と、歴史ある建造物を活かし、厳選された植物の配置はとても優雅で洗練されたものでした。

温室を自宅に持つということはなかなか難しいことですが、植木鉢をどのようにディスプレイするか、あるいは細長い花壇でどのようにカラーリングするかなど、たくさん参考にしたい点にあふれています。

石畳でできた通路はとても細く、ひと一人が歩けるのが精いっぱい、というサイズなのですが、それ故に植物たちを身近に感じられる場所。

どこを見ても絵になるシーンが繰り広げられており、ガーデナーにとっては至福のひと時を過ごせる場所に違いありません。

パラム・ハウス&ガーデンズへ行ってみよう!

パラム・ハウス&ガーデンズは日本ではまだあまり知られていない場所かもしれません。
けれどピアソン夫妻が情熱と愛情をもって修復したエリザベス朝時代の優雅な邸宅、内部に飾られる美術館にも匹敵するほどのコレクションの数々。

そしてモダンとクラシカルが美しく融合した魅力あふれるガーデンなど、どれも見どころがいっぱいの場所です。
ぜひ花の美しい季節に、パラム・ハウス&ガーデンズに滞在してみてはいかがでしょうか。

パラム・ハウス&ガーデンズへの行き方

パラム・ハウス&ガーデンズの最寄りは、Pulborough 駅になります。ロンドンからはヴィクトリア駅から直通で約1時間15分、充分に日帰りできる便利な立地にあります。

Pulborough 駅にはタクシーは見当たらなかったので、事前にタクシー会社に電話をして、往路の予約をしておくのがおすすめです。距離は約4マイル、およそ6.5キロほど。所要時間は10~15分で、料金は片道10~15ポンドほどかかります。

また、Pulborough 駅よりバスで行く方法もあります。駅から坂道を下った場所にあるバス停から100番のバス Burgess Hill 行きに乗って、10分前後でVillage Hall のある Cootham で下車します。

ここからパラム・ハウスの入り口まで徒歩20分ほどかかるのですが、看板が出ていますので迷うことはないでしょう。

ただしバスの時間は1時間に1本ほどなので、時間には充分気をつけてくださいね。バスの出発・到着時間は下記のリンクをご参照ください。
パラム・ハウス&ガーデンズのオープン時間は邸宅と庭園が異なり、季節によってはクローズしている期間も。料金や詳しい情報は、下記のウェブサイトをご参照してくださいね。