スコットランドでガーデンを楽しもう!~ハーモニー・ガーデン~

スコットランド・ボーダーズエリアにあるガーデンの中でも、街の中という滞在に便利な場所に位置し、ナチュラルで可憐な雰囲気がいっぱいのハーモニー・ガーデン。その名のとおり、花と植物、野菜や芝生、建築物が優しいハーモニーを描いている庭園です。今回はナショナルトラスト・スコットランドが管理をしている、ハーモニー・ガーデンをレポートします!

歴史ある街、メルローズ

今回滞在したハーモニー・ガーデンのあるメルローズは、スコットランドのエディンバラから南東へおよそ60キロ、スコットランドとイギリスの国境近くにある小さな街です。

その人口はおよそ2500人前後と言われており、こじんまりとしたサイズの中にも思わず足を止めてみたくなるお店も多く、可愛らしい魅力にあふれています。

その歴史は古く、メルローズから南へ1マイル(約1.6キロ)の場所にあり、メルローズの街からもその姿を眺めることができる、高さ約420メートルほどの丘エイルドン・ヒルズでは、英国の青銅器時代に、ケルト人がこの場所を要塞として使っていたことが発掘調査で分かっています。

また、メルローズの東に約1.3マイル(約2キロ)離れた場所にあるニューステッドには、古代ローマ人の居留地が見つかっていることから、この街が非常に長い歴史を持っているのが分かります。

メルローズ修道院

メルローズの街の名前は古ウェールズ語、またはブリトン諸語で『樹々のないがらんとした荒地』という意味を持ち、その名はイギリスのキリスト教聖職者、ベーダ・ヴェネラビリスが残した記録で見ることができます。

また、メルローズには有名な建築物であるメルローズ修道院があり、ハーモニー・ガーデンからすぐそばに位置しており、こちらもぜひ滞在をおすすめしたい場所。

メルローズ修道院は1136年、カトリック教会の聖人であり、教会や修道院の建設の改革をすすめた、スコットランド王ディヴィッド1世の依頼により、シトー会の修道士が建設したものとなります。
 

メルローズの街はエディンバラから南へと向かう主要の道に位置していたため、修道院もイングランドとスコットランドの戦火に何度も呑み込まれる運命となりました。

1322年、イングランド王エドワード2世が送った軍隊の攻撃によりメルローズ修道院は破壊され、1385年にもイングランドのチャールズ2世の軍隊に攻撃を受けましたが、その度に復建されてきています。
しかし1544年に攻撃を受けた際の被害は大きく、再建には至りませんでした。

最後の攻撃はイングランド内戦の際、イングランド共和国時代の初代護国卿であったオリバー・クロムウェルによるもので、その砲撃の痕を修道院内部の壁に未だに残しています。

以前ご紹介したアボッツフォード・ハウスの持ち主で、弁護士、裁判官でありまた作家として世界的に有名なウォルター・スコットは、このメルローズ修道院の遺跡を保護するために修復作業を監督しています。

なお、イングランドやスコットランドでは、かつては王や王妃が埋葬地が遠い場所で死去したり、埋葬教会以外の場所に分葬を望んだ際には、内臓を取り出して他の場所に埋葬する習慣があったと言われ、メルローズ修道院でもスコットランド王ロバート1世、ロバート・ザ・ブルースの心臓が埋葬されたと言われています。

ラグビー・セブン発祥の地

メルローズはその他にも7人制ラグビー、いわゆるラグビー・セブンの発祥地として知られています。始まりは1883年、資金集めの大会のためのメンバーが集まらなかったメルローズで、少人数制のラグビーをすることに決めたことと言われています。

その後ラグビー・セブンは世界的な人気となり、現在ではオリンピックスポーツとしても承認されているほど。

毎年行われる世界大会での優勝カップは発祥のこの街の名前から、『メルローズカップ』として贈られていることでも有名です。

ハーモニー・ガーデンの歴史

英国内のガーデンは駅や街から離れていることが多く、車でないと行きにくいのが難点ですが、ハーモニー・ガーデンはメルローズの街の中というとても便利な立地にあります。

庭園はメルローズ・ラグビー・フットボール場のすぐそばとなり、初めて滞在する方にもとても分かりやすい場所。
入り口となるゲートのミントグリーンの可愛らしいカラーが目印となっています。

庭園内に入ると目にするのが、エレガントな雰囲気に満ちあふれている、ジョージアン様式の邸宅です。

こちらはハーモニー・ハウスという名前で、ガーデンと同じくナショナルトラスト・スコットランドが管理しており、自炊ができるホリデー・アコモデーションとなって一般に提供されています。
ご興味のある方は、最後にご紹介するリンクを参考にしてくださいね。

ハーモニー・ハウスはメルローズ出身で、貿易業に就き、ジャマイカに農園所を持ち財をなしたロバート・ウォーが1807年に建てたものとなります。

ハーモニー・ハウスはスコットランドでも有数の美しい邸宅と呼ばれ、ジャマイカでの仕事を終えたロバート・ウォーは引退後、メルローズに帰って来た後にこの家を建て、ジャマイカでの住まいと同じ名前、『ハーモニー』とこの邸宅を名付けました。

また、ジャマイカのハーモニー・ハウスの名残とも言われているのは、その家と同じように造られた、現地の野生動物の侵入を守るための階段と、そして2本の柱になります。

ハーモニー・ハウスと敷地はロバート・ウォーの死後である1820年、ピットマン家の手に渡ります。

最後の持ち主となったエディンバラの弁護士であるジャック・ピットマンとその妻クリスチャンは、冬は暖房の行き届いたエディンバラに住み、ハーモニー・ハウスではガーデンの美しさを堪能できる夏を過ごしていたそうです。

事前にピットマン夫妻はハーモニー・ハウスとガーデンをどうするか決めていたそうで、1996年、クリスチャン・ピットマン夫人が死去した際に、遺言通りナショナルトラスト・スコットランドに寄贈されました。

現在は3月末日から10月いっぱいの間、ガーデンは一般公開され、入場料は無料となります(2017年の情報です)。
なお、ガーデンと違いハーモニー・ハウスは宿泊された方以外は入れませんのでご注意ください。
 

ハーモニー・ガーデンに滞在した日は運良くとても良いお天気となりました。しかしハーモニー・ハウス前で気付いたのですが、この日はウェディング・パーティーが行われることになっていたのです。

ハーモニー・ハウスとガーデンではプライベート・パーティーを受け付けており、予約の入っている日は、そのお客様のために貸し切りとなります。

事前に調べたハーモニー・ガーデンのオフィシャル・ウェブサイトでは、ウェディング・パーティーのため貸し切りと発表された日は滞在日の前日となっていたので、電話で確認はせずに来てしまったのでした。

すでにパーティーに参加するための人々が集まり始めており、入園できるかどうか不安だったのですが、まだパーティー開始前ということで何とか入れてもらうことができました。

邸宅前の芝生のエリアにはパーティーに使われるマーキー、巨大テントが設置されており、晴天にも恵まれ、きっと素敵なウェディング・パーティーになったことと思います。

ハーモニー・ガーデンの魅力

ハーモニー・ガーデンは周囲を壁に囲まれたウォールド・ガーデンとなり、その大きさは約3エーカー(約12140㎡)となります。街の中にある庭園としてはなかなかの大きさで、見ごたえも充分。

レイアウトは直線を利用した非常にシンプルなものとなり、芝生、キッチンガーデン、花壇やグラスハウスなどを楽しむことができます。

ハーモニー・ガーデンは、最後の居住者であるジャックとクリスチャン・ピットマン夫妻がハーモニー・ハウスと庭園を受け継ぐ前に住んでいた、ピットマン家の3人の姉妹によってレイアウトが造られたと言われています。

それはコテッジガーデンの基礎のレイアウトとも言える、直線を用いたとても分かりやすいシンプルなもの。
それだけに植物たちが作り出す、生き生きとした美しさが際立っているように思えます。

ハーモニー・ガーデンのキッチン・ガーデン

グラスハウスとその前面にある芝生のエリアを正面に、野菜を植えてあるキッチンガーデンがあります。
整然と並んだ野菜や果実のグリーンが美しく、そしてその周囲はカラフルな花々で彩られ、華やかさに満ちた印象です。

ハーモニー・ガーデンのキッチンガーデンの大きさは、庭園全体の1/3を占めると言われ、通常の庭園に比べても、大きなサイズのキッチンガーデンだったのが印象的です。

ここでとれた野菜や果実は、ガーデン内で販売されることもあるそうです。とても丁寧に手入れがされていたので、味はきっと格別なはず。次回滞在する際には購入できるといいなと思います。

ハーモニー・ガーデンのウォールド・ガーデン

ウォールド・ガーデンの壁を背に造られた花壇では、横幅と並んで奥行きがたっぷりと取られ、背丈の高い花やさまざまな色合いを使ったカラフルな雰囲気に。

しかし全体のトーンは非常に柔らかなテイストで、カラーリングはどれもおだやかな色彩を使ったもので、優し気で、かつナチュラル感あふれる花壇となっていました。

ハーモニー・ガーデンのエクステリア ①ボックスヘッジ

素朴な雰囲気が魅力的なハーモニー・ガーデンでは、エクステリアも天然の素材を使ったものばかり。その中でも幾つか印象に残ったものをご紹介します。

壁際の花壇には垣根を利用したボックスヘッジを使っていますが、形式ばったものではなく、あくまでも刈り込みは良い意味でラフな感じで、シンプルかつ味わい深いものとなっています。

また、垣根を低めに剪定していることで、背の高い花壇の植物との対比がドラマティックに生まれているのが分かります。

ハーモニー・ガーデンのエクステリア ②レイズドベッド

また、キッチンガーデンで利用しているのは木材を使ったレイズドベッドで、散策できる小道もスッキリと整えられていました。

真っ直ぐなラインが強調されるレイズドベッドですが、逆にその整然さは、野菜や果実が生み出した自然のフォルムが映えるものとなっています。

ハーモニー・ガーデンのエクステリア ③オベリスク



高く伸びるつる性の植物や野菜に欠かせないオベリスクにはバンブーを利用しており、実用性にも優れ、またガーデンのナチュラルな雰囲気にもぴったりなものとなっています。

バンブーは支柱として活用されるものですが、値段も手ごろで手に入れやすいので、ガーデナーの方たちの多くが愛用している、馴染みのあるアイテム。

今までバンブーは支柱としての活用法しか考えていなかったのですが、バンブーは自分自身で高さを調節できるので、オベリスクとしても好みの大きさに合わせて手作りできるのだなと、新たな発見がありました。


オベリスクは各ガーデンによって素材、デザインが異なるものが多く、いわばそのガーデンのスタイルを反映するエクステリアでもあります。

バンブーで出来たオベリスクは、ナチュラルな雰囲気が魅力のハーモニー・ガーデンにとても良く似合っていました。

ハーモニー・ガーデンのエクステリア ④トレリス

壁に沿って配置し、つる性の植物をからませる役割を持つトレリスですが、ハーモニー・ガーデンではスイートピーのために中央のガーデンの端に置き、壁としての役目も果たしていました。

こちらもやはり木材の柔らかな質感を生かし、自然を感じさせるガーデンにぴったり。

また、壁として使いながらも向こう側が見えるトレリスの機能性も生かし、メリハリを利かせながらもソフトな雰囲気をつくり出すのにもひと役買っているのが分かります。

ナチュラルな雰囲気が好きな方に。ハーモニー・ガーデンに行ってみよう!



歴史あるメルローズの街、そしてその街の中にある庭園であるハーモニー・ガーデンは、便利で行き来もしやすい場所にあり、ボーダーズエリアに来た際にはぜひ訪れて欲しい場所のひとつです。

3エーカーという大きさですから、一般の庭としては非常に大きな庭園であるハーモニー・ガーデンですが、優しい色合いを多く使った植栽法や、自然の素材を生かしたエクステリアなど、ナチュラルガーデンが好きな方には庭造りのきっと参考になるはず。

また、前にご紹介したアボッツフォード・ハウスとは2.5マイル、約4キロの距離となりますので、2つのガーデンをカップリングとして行くのもおすすめです。

ハーモニー・ガーデンへの行き方

ハーモニー・ガーデンへの行き方は、エディンバラからではスコットランドの他のガーデンと同じように車での移動が一番簡単なものとなります。

交通公共機関を使う場合では、エディンバラのバスステーションからバス(X62番)がメルローズまで出ており、所要時間は約2時間30分となります。

バスの時刻表は下記のウェブサイトを参考にしてくださいね。



ハーモニー・ガーデンのオープン期間は3月31日から10月31日までとされていますが、変更になる可能性もありますので、料金やオープン期間の詳しい情報については下記のウェブサイトを参考にしてください。

なお、今回私が遭遇したように、ハーモニー・ハウス、またガーデンではプライベート・パーティーやウェディング・パーティーなどで貸し切りとなることがあります。

情報はウェブサイトを確認の上、念のため電話でも確認をすることをおすすめします。
また、ハーモニー・ハウスでの宿泊に興味のある方は、下記のリンクをご参照くださいね。