スコットランドでガーデンを楽しもう!~ポートモア・ガーデンズ Vol.2~

スコットランドの園芸慈善団体であるスコットランズ・ガーデンズでは、毎年個人の庭園を数多く紹介しています。厳しい審査を通り、わずかな期間だけ公開されるスコットランドのオープンガーデン。その中でも非常に洗練された、魅力いっぱいの庭園であるポートモア・ガーデンズを、前回に引き続きご紹介します!

ポートモア・ガーデンズには見どころはたくさんありますが、滞在する人を魅了してやまないのが、1.5エーカー(約6070㎡)ある、長方形のウォールド・ガーデンとなります。

周囲を壁に囲まれた内部は、垣根やライムツリーなどによって『Room』と呼ばれる、8つのエリアに分かれています。

ローズ・ガーデンやポタジェ、パルテール・ガーデンやノット・ガーデンなど、カントリーハウスのガーデンとしては小ぶりながらも魅力にあふれたエリアばかり。

さらに中央の道に造られたボーダー・ガーデン、それに交差する道となるライム・ウォーク。そして今回のレポートでは、その他のエリアや気になる植栽法、そしてエクステリアなどをご紹介します!

ホットカラーを使った、グラスハウス前

それぞれの『Room』によって異なる顔を持つ、ウォールド・ガーデン内の8つのエリアも見ごたえたっぷりなのですが、ポートモア・ガーデンズでは、まだまだ忘れがたい表情を持つ場所がたくさんあります。

そのひとつがグラスハウスの前に位置する花壇です。

以前ご紹介したように、現在の持ち主であるリード夫妻がこの庭園造りをスタートした際には、もともとあったグラスハウスは既に崩壊しており、こちらはその後に新たに造られたものとなります。

このグラスハウスは、ポートモア・ガーデンズのウォールド・ガーデン内にある、壁の一部の役目も果たしており、さらに庭園内の美しいフォーカルポイントともなっています。

このエレガントなグラスハウス前方に造られた花壇には、黄色やオレンジをメインとする、ホットカラーの花々が植えられていました。

このグラスハウスの横幅は長く、その分このカラフルな花壇を存分に楽しめるようになっています。

グラスハウスの正面のドアの左右両サイドに植えられた、黄色やオレンジといった明るい色合いの花々と、それを引き立たせるグリーンが美しい葉の植物が、ハッとするほどあざやかなコントラストを描いています。

フロントにはシックな紫色が特徴のサルビアを用いて、全体に渡り非常に華やかな雰囲気をかもし出していました。

さらに花壇内部にトピアリーや低木をミックスさせるという、高低差を生かした植栽法を用いて、ドラマティックな景観に。

建造物に使われた優しいホワイトカラーと、すっきりとした静寂さを持つガラスとのコンビネーションが見事なグラスハウスの前方を、まぶしいほどの色彩で彩っていました。

道のサイドの花を楽しめる、ロングウォーク

ポートモア・ガーデンズのウォールド・ガーデンでは、植物を楽しめるのは8つのエリアやグラスハウスの前だけではありません。

ロングウォークと名付けられた、壁の周囲に造られた道でも、カラフルに彩られた花々を鑑賞する事が出来ます。

ウォールド・ガーデンへの入り口である、ゲートの左右に伸びているロングウォーク。

ここではアルケミラ・モリスをグラウンドカバーとした、イエロー X ホワイトでまとめられた花で、来場者の気持ちを明るくさせてくれる植栽が印象的でした。

ウォールド・ガーデン内の中央に造られたボーダー・ガーデンと平行になっている、ガーデンの右側の壁の前にあるロングウォーク。

ここでは異なる色合いの葉を持つカラーリーフと、クラシカルな赤をメインに、グラデーション効果が利いているカラーの花でまとめられていました。

華やかなボーダー・ガーデンと比べてみて、このエリアは大人っぽい、シックなイメージが印象的。ところどころに配置された垣根もメリハリが利いていて、区切りとしての効果が抜群でした。

壁の周囲のロングウォークは、庭園内を歩きながら、これらの微妙な色合いが美しい花壇によって、それぞれに違う表情を楽しむ事が出来るのです。

ウォールド・ガーデンの裏手へ

ポートモア・ガーデンズの庭園は見ごたえたっぷりのウォールド・ガーデンがメインとなりますが、見るべき場所はこれで終わりではありません。

グラスハウスを通り抜けると、裏手へと通じますが、こちらもやはり庭園となっているのです。

ここではコールド・フレームと呼ばれる、植物を種から育てる時や、冬越しをする時に大活躍してくれる、庭園には欠かせないアイテムが目に入ります。

また、その向かいには小ぶりのグラスハウスがあり、内部にはたくさんの植物が。
ここのセクションでは、来場者の方たちがポートモア・ガーデンズのガーデナーさんが育てた植物を、購入出来るナーサリーとなっています。

一般公開されているガーデンのナーサリーに引けを取らない、あるいはそれ以上の品ぞろえと、丁寧に育てられているのがひと目で分かる植物たちがたくさんありました。

小さなキッチンガーデンへ

このナーサリーのエリアを抜けて、さらに後方へと進む扉があります。

このゲートを抜け、緩やかなカーブを描く通り道を歩いていくと、小さなキッチンガーデンを見る事が出来ます。

ウォールド・ガーデン内のポタジェに比べても小さめな、可愛いサイズのキッチンガーデンですが、小ぶりなシッティングエリアを造ったり、アーチには枝を使ったりと、ナチュラルさがいっぱい感じられるキッチンガーデン。

滞在した日はスコットランドとしては珍しく(?)とても良いお天気でしたが、周囲が森林に囲まれているため、爽やかで涼しげな雰囲気にあふれていました。

写真を見て頂いても分かるように、ウォールド・ガーデンの裏手のガーデン、とは言っても大きさはかなりなもの。

この裏手のガーデンは、小石で造られた素朴で暖かな雰囲気の通り道を歩きながら、のんびりと散策する事が出来ます。

また、今回はご紹介しきれませんでしたが、この庭園の周囲も歩けるようになっており、ポートモア・ガーデンズの最初の基礎を作り上げたという、コリン・マッケンジーの時代に植栽されたであろう森林を楽しめるようになっています。

ポートモア・ガーデンズの植栽テクニック

個人の持つ庭とは思えないほどの規模と、そして訪れる人の目を奪わずにはいられない植栽法で、今年一番とも言えるガーデン滞在と思わせてくれたポートモア・ガーデンズ。

今回の滞在で特に目を引いた、ポートモア・ガーデンズの植栽法やテクニックをご紹介します。

グラデーション効果を放つ、ボーダー・ガーデンのカラーリング

ポートモア・ガーデンズでご紹介したいテクニックのひとつ目は、ボーダー・ガーデンを筆頭に、思わず立ち止まってしまうほどの華やかな、オリジナリティあふれるカラーリングと言えるでしょう。

ボーダー・ガーデンではグラデーション効果を存分に生かしたカラーリングで、カラーリーフや芝生、そしてトピアリーが持つ緑との相性が素晴らしく、花々と抜群のコンビネーションを放っていました。

ポートモア・ガーデンズのボーダー・ガーデンのカラーリングで、特にインパクトを放っていたのが、『赤い色』の使い方です。

お恥ずかしい話ですが、私は今まで、花壇に『赤』という、言わば強烈とも言える色彩はあまり合わないのではないか…という先入観があり、自宅のガーデンでも赤い色を持つ花に、それほど注意を払った事はなかったのです。

それまではどちらかと言えば、白や薄いブルーといった淡い色合いや、儚げな雰囲気を持つ花に惹かれていたので、赤い花はほんの少しだけ、小さなエリアだけにしか迎え入れた事はありませんでした。

強い色彩である赤い花は、花壇には少し派手すぎるのではないか?という、今まで抱いていた偏見を、ポートモア・ガーデンズは根底から覆してくれました。

それほどここのボーダー・ガーデンの赤を生かしたカラーリングは印象深いもので、非常にエレガントで美しく洗練されており、後々まで忘れがたいものとなったのです。

赤という色にこんなにも種類があったのか、という驚きと、それを庭に使った時のインパクトが素晴らしく、すっかり赤い花に魅了されました。

来年用に植える花をプランニングする際に、『赤』という色彩がしっかりと入って来たのは言うまでもありません。

ポートモア・ガーデンズから学ぶ ー 庭に合った植物を知り、選ぶ事

ポートモア・ガーデンズに滞在すると、その華やかな植栽に圧倒されがちなのですが、実際には使われている植物はそこまで多くはないのではないか、という印象を受けます。

というのも、このエリアは海抜900フィート(約274メートル)という場所に位置しており、非常に寒さが厳しい立地条件となっています。

スコットランドらしく年間の降水量が多く、また時折り吹きすさぶ風も強く、5月に霜が降りることさえあるという、ポートモア・ガーデンズ。

この庭園の持ち主のクリッシー・リード夫人は、この美しい庭を作り上げたその秘訣について、『この土地の気候に耐える事が出来る植物を知り、厳選し、それらを栽培した事』と答えています。

非常にシンプルなリード夫人の回答ですが、これはガーデニングの基本であり、また非常に大切な事だと言えるでしょう。

ガーデニングを始めると、雑誌や書籍、あるいはネット上で見た美しい植物を、自宅の庭に迎えたいと誰しも思うのではないでしょうか。

しかしどのような庭であれ、天候や土などの条件があり、その場所に合う植物、合わない植物が存在します。

美しい庭造りの一歩は、どんな植物が自分の庭に合うのかを知る事。
また、それまでは庭に迎えようと思わなかった植物でも、自分の庭の天候や土に合うものであったなら、それを生かす植栽法を考えてみる。

つい忘れてしまいがちなガーデニングの基本を、ポートモア・ガーデンズで教えてもらったような気がします。

カラーリングのテクニック ー リピートの美しさ

また、ポートモア・ガーデンズの植栽法で注目したいのが、植物をリピートしつつ植える方法です。

たとえばボーダー・ガーデンですが、特定の植物を反復しながら植えており、また、道を挟んで両サイドは、とても美しいシンメトリーで植えられています。

同じ花が再び植えられている事で、ボーダーにリズムが生まれ、与える印象が強調されています。またシンメトリーに植えた事で、左右のバランスが素晴らしいものとなっています。

この同じ植物を繰り返しながら植える方法は、忘れてはならないポートモア・ガーデンズのテクニックでしょう。

花壇には異なる花を多く植えたいという欲求が出て来がち。
しかしポートモア・ガーデンズのボーダー・ガーデンを見ると、このリピート法で植物を植える事により、庭の表情はリズミカルで、よりいっそう華やかに見えるという事に気付かされました。

高低差を利用して、ドラマティックな景観を作る

さらにポートモア・ガーデンズで特徴的なのが、植物の持つ高低差を利用して、花壇をドラマティックに見せる方法です。

花壇の一番手前には小さな花を、その後ろに中間の背丈の花を。そして壁に近い後方には、背の高い花を植えるのは、植栽法のセオリーと言えますが、ポートモア・ガーデンズでは、このバランスがとてもダイナミックに感じられます。

この花壇の手前に小さな花を植え、その後ろには思い切り背丈の高い花を組み合わせるのは、圧倒的な存在感を放つ方法で、自宅の庭でもぜひ真似してみたいと思わせるアイデアでした。

花壇の合間に低木を植えたり、あるいはオベリスク、植木鉢などでインパクトを出すのも、きっと参考になる植栽法だと思います。

想像力を豊かにさせる!垣根から垣間見せる、次のシーン

イングリッシュ・ガーデンのひとつの特色とも言える壁を使ったウォールド・ガーデン。この内部ではよく見かけるのが、垣根を使って内部をエリア分けする方法です。

これは多くのウォールド・ガーデンで使われている手法と言えますが、ポートモア・ガーデンズでは、この垣根が途中で途切れていたり、あるいはアーチ型になっていたり、または下に空間のある木々を使ったりしています。

ポートモア・ガーデンズのウォールド・ガーデンは、この垣根のわずかな隙間から、次のエリアがちらりと見える事によって、興味深い風景をつくり上げているのです。

垣根で完全に壁を作ってしまうのではなく、ほんの少し、次のセクションのシーンを垣間見せる事で、『次のエリアはどんな庭になっているんだろう?』とワクワクさせてくれるポートモア・ガーデンズ。

完全にクローズしてしまうのではなく、ほんの少しだけ見せる、ポートモア・ガーデンズの垣根のテクニックは、庭園を散策する人に、想像力を与える事が出来る方法だと感じられました。

ポイントとなる芝生の刈り方

ライムウォークやボーダー・ガーデンなど、芝生が植えてある場所は、非常に丁寧に刈り取られていたポートモア・ガーデンズですが、ひとつ面白い刈り方があったのでご紹介します。

それはゲートから入って右手にあるエリア。
ここにはポートモア・ガーデンズにぴったりとも言える、ローマ神話に登場する花と春、そして豊穣を意味する花の女神フローラの石像があります。

静寂な雰囲気をかもし出すフローラが、林檎のアーチの向こうにひっそりと佇んでいるのが見えます。この石像の下の芝生ですが、よく見てみると、ここだけが長く伸びているのです。

芝生と言うのは刈り込むもの。そんな概念を取り払い、春を待ちわびるフローラの姿を強調するアイデアに驚かされました。

心を穏やかにしてくれる、シッティングエリア

また、ポートモア・ガーデンズにはあちこちにシッティングエリアを見かける事が出来ます。カントリーハウスの中では小さめのガーデンとは言っても、これだけ見どころのあるガーデンを見るには時間がかかります。

そんなガーデン散策に疲れた時のために、ちょっとひと休み出来る椅子があると、とても嬉しいもの。

シッティングエリアと言ってもただ座るだけでなく、各エリアごとに異なるデザインを楽しむ事が出来、どこもクラシカルでしっとりとした雰囲気でまとめられていました。

またこのシッティングエリアも、場所、そして周囲にこだわって造っているのが分かります。

古いものと現代のものをほどよくミックスさせ、そして美しく広がる前方のガーデンを眺めながら、静かなひと時を過ごす事が出来る場所。

場所やデザイン、レイアウトともに、充分に考慮して造られた場所であるのが分かるエリアでした。

多くの感動をもらえる、ポートモア・ガーデンズ

クラシカルなレイアウトと美しいデザイン、そして植栽法でもたくさんの発見に満ちあふれていたポートモア・ガーデンズ。

現在では3人のガーデナーさんと、2人のボランティア、そしてリード夫妻によって手入れがされているそうです。

個人の邸宅とは思えないほどの完成度、そして多くの感動と驚き、また喜びが存在するガーデンで、今年一番のお気に入りになりました。

オープン期間は夏の2か月間のみ、さらに週に1日だけという少なさではありますが、もしこの季節にスコットランドを滞在する機会があれば、ぜひおすすめしたいガーデンです!

ポートモア・ガーデンズへの行き方

ポートモア・ガーデンズへの行き方で、一番簡単な方法は車での移動になります。エディンバラからは約18マイル(約29キロ)、車で約50分ほど。

もし旅行中などで車で移動が出来ない場合、交通公共機関を使うのであれば、移動方法はバスとなります。

エディンバラのバスステーションより出発している、メルローズ行きのバス(X62番)を利用する事が出来ます。バスの時刻表は、下記のウェブサイトを参考にして下さいね。

ポートモア・ガーデンズに一番近い停留所は、Eddleston Portmore Estateとなり、エディンバラのバスステーションからは約1時間10分弱かかります。

降りる周囲には目印になるような建物がないので、あらかじめバスの運転手さんに、到着したら教えてくれるよう、頼んでおきましょう。

また、バスの本数が1時間に1本程度と少ないので、乗り遅れないよう、気を付けて下さいね。

車で来る場合には、ガーデンのサインはとても小さいので、注意が必要です。小さな黄色い看板が門の前に出ていますので、見逃さないようにご注意を。

オープン時間や料金などは、下記のウェブサイトを参考にして下さいね。