スコットランドでガーデンを楽しもう!~ フォークランド・パレス&ガーデン Vol.2 ~

スコットランドの自然豊かな景色に囲まれた可愛らしい村、フォークランドにあるフォークランド・パレス。その長い歴史とドラマティックな風情を持つ宮殿とともに、ガーデンもこの場所の見どころのひとつとなります。今回はフォークランド・パレスのガーデンについてレポートをお届けします!

フォークランド・パレス・ガーデンの歴史

フォークランド・パレスは小さな村の中心にあるとは思えないほどの規模を誇ります。メインストリートから宮殿内に入り、ガーデンへと歩いて行くと、その意外とも言える大きさに誰もがびっくりするのではないでしょうか。

宮殿は広さ3ヘクタール(30,000㎡)もある敷地内に建てられており、東京ドームの大きさが46,755㎡となりますから、それと比べてみるとこの土地がかなりの大きさであるのが分かります。

ファイフ州に立地するフォークランド・パレスの庭園はスコットランドらしく、北東からの強風が吹く場所で、それを防ぐためでしょうか、周囲はぐるりと高い石の壁に囲まれています。

残念ながらフォークランド・パレスのガーデンは何度も改装、修復を重ねており、かつてこの場所にあった庭園の様子は残されている絵画や記録から知るだけとなっています。

12世紀にこの場所のロッジが建てられていた時代から庭園は存在していたのでは、と言われていますが、最初にガーデンの様子が記されているのは、ジェームズ2世の時代となります。

ジェームズ2世は1451年にファイフ州の伯爵領とフォークランド・パレスを与えられていますが、そののちの1453年から1456年にかけてガーデナーへの給料の支払いの記録が残されており、この時期に庭園のために時間と労力、そして費用を費やしているのが分かります。

ちなみに16世紀においてはフォークランド・パレスのガーデナーの労働時間の記録が残っているのですが、冬の間は一日8時間、夏は一日14時間(‼)、そして週に6日も働いていたそうで、その時代のガーデナーはとてもハードな仕事であったのかが想像できますね。

1462年には庭園に芝生が張られ、1488年には庭園の周囲は木製の柵が張り巡らされました。現在のように石の壁となったのは1513年からと言われています。

また、ジェームズ2世の時代には、王の食卓に新鮮な魚を提供するため、庭園内に池があったことも記されています。この時代には多くの庭園で同じように魚を得るために池が造られていたのです。

ジェームズ6世の息子であり、のちに断頭台で斬首された唯一の国王であるチャールズ1世の時代である1628年にも、庭園の植栽や改善にかなりの労力をかけていたことが記されています。

その2世紀後には現在はウォーター・ガーデンとして知られているエリアにキッチン・ガーデンが配置され、テニスコートの壁に沿って果樹が植えられています。

さらに1826年から1869年には、キッチン・ガーデン、果樹園、フラワー・ガーデンとして庭園は発展を遂げています。

1887年にジョン・パトリック・クリフトン・ステュアートがフォークランド・パレスの『宮殿の管理人』となったのち、彼は宮殿の改装の一環として庭園の修復に取り掛かっています。

それまでのキッチン・ガーデンはパーゴラやデコラティブな花器を使い、美しく変貌を遂げました。また果樹園と宮殿の庭、そして住居を橋や散歩道と一緒に繋ぎ、池の周りに樹木や低木、花々が植栽されています。

『宮殿の管理人』クリフトン・ステュアート家によって生まれ変わった庭園

フォークランド・パレスの庭園が現在のように生まれ変わったのは、1946年に『宮殿の管理人』の任務に就いたマイケル・クリフトン・ステュアートとその妻バーバラの時代です。

彼らは著名なガーデン・デザイナーであるパーシー・ケインに庭園の修復を依頼します。数々のガーデンのデザインを手がけたケインは、1947年から数年という月日をかけて、このフォークランド・パレスの庭園を新たに蘇らせたのです。

ちなみにパーシー・ケインは以前ご紹介したモンティヴィオット・ハウスの庭園も手掛けています。このふたつの庭のレイアウトを比べてみると、ケインのデザインの特色が良く分かります。

上の写真はモンティヴィオット・ハウスのガーデンのものになります。こうして見ると、フォークランド・パレスの庭園との共通点を感じて頂けるのではないでしょうか。

彼はどちらの庭園でもメインとなるエリアに広大な芝生を敷き、その中にゆるやかなカーブを描いて花壇を造り、芝生と季節によって咲き誇る花々、ふたつを同時に楽しめるエリアを完成させています。

この庭のレイアウトは今でも多くの庭園や一般の家庭の庭でも見られ、パーシー・ケインが造り出した庭園やそのレイアウトが、時代が変わっても今もなお人々を魅了しているのが分かります。

ウォーター・ガーデン

フォークランド・パレスでは、他にもパーシー・ケインのデザインによって造られたガーデンを見ることができます。

ケインは1955年、フォークランド・パレスの特色とも言えるテニスコートの手前に位置する場所にウォーター・ガーデンを作成します。こちらは長方形に区切られた場所の中で、そのスッキリとした直線のラインを活かして設計されているのです。

中央に作られたプール、そして通路のかたちに沿って植栽された、良い香りを放ちながら咲き誇るラベンダーと、壁の役割を果たしている整えられた垣根、そして石の壁に囲まれているウォーター・ガーデン。

このエリアはイギリスの庭園でよく見ることのできる、庭の中にひとつの独立した部屋のように見える『ROOM』としてその存在を際立たせています。

2018年は世界的に暑い夏だったのか、いつもは肌寒く感じるスコットランドでも記録的に天候に恵まれていました。そのせいでしょうか、滞在した日にはラベンダーはすでに盛りは過ぎたころ。しかし最後の輝きを見せてくれたラベンダーを、たっぷりと堪能できました。

このウォーター・ガーデンは芝生のみずみずしさと儚げなラベンダー、そしてプール内に咲くスイレンの見事なコンビネーションを楽しめる場所となっており、現在でもテニスコートへ続くエリアとしてケインのシンプルでありながら非常にバランスのとれたレイアウトの美しさをじっくりと味わうことができるでしょう。

ハーブ・ガーデン

かつてはその中央にいくつもの花壇があったことが、その時代の絵画によって分かるコートヤード(中庭)はケインにより、芝生で一面の緑となりました。

また彼は宮殿とその中庭を一望できる場所に、ルネッサンス時代の薬草庭園を模して、ハーブ・ガーデンを作成しています。

このハーブ・ガーデンはフォークランド・パレスやその庭園の大きさを考えると、小さめなサイズと言えますが、その分素朴でありながらも洗練されたレイアウトで、ハーブ・ガーデンとともにコートヤードと宮殿を眺めることのできる素晴らしい場所に位置しています。

こちらのレイアウトはとてもシンプルで、一般の庭でも真似できそうなところも見どころのひとつ。広大な庭でも、小さめのサイズのガーデンでも、美しくまとめあげるケインのデザインがよく実感できるエリアとなっています。

自宅の庭にハーブ・ガーデンを作ってみたい、という方や、背丈のあまり高くない花を植えるときのバランスを知りたいと思っている方には、ぜひ参考にして頂きたいガーデンです。

グラスハウス

ウォーター・ガーデンをテニスコートと挟むようなエリアに設置されているグラスハウス。こちらは広いフォークランド・パレスの庭園の中でひとつのフォーカルポイントのような役目を果たしています。

きらきらと光るグラスと輝くフレームの白さが美しいこのグラスハウスは、1890年に設計されたものを、1985年に再建したものとなります。

グラスハウスの特徴的なデザインは、この時代から多くの人々のあいだで絶大な人気を誇ってきたマッケンジー&モンクール社のもの。

寒さが厳しいイギリスの庭園ではなくてはならないグラスハウスですが、1696年に導入された巨額のウインドウ税と1746年にガラス税のため、この時代の英国ではグラスハウスは一般の家庭では取り入れることは出来ず、非常に裕福な人々だけが手に入れることができたのだそう。

このマッケンジー&モンクール社は1869年に創業し、現在でもエディンバラに拠点を構えています。王室の仕事も数多く手掛けてきたマッケンジー&モンクール社のグラスハウスは今も多くのガーデンでその優美な姿を見かけることができるのです。

フォークランド・パレスのグラスハウスの中では、たくさんのゼラニウムやペラゴニウム、多肉植物などがあり、花々を観察しながらゆったりとした時間を過ごすのに最適な場所。

グラスハウスの周りでは華やかな赤いバラが咲き誇り、周囲に張り巡らされたいきいきとした芝生の緑、そしてグラスハウスの白、そして赤いバラのコントラストがとてもエレガントな印象でした。

ナショナル・トラストの管理のもとで

『宮殿の管理人』であったマイケル・クリフトン・ステュアートとバーバラは、1952年にナショナル・トラスト・フォー・スコットランドを代理の管理人として任命しています。

これは二人が亡くなった後に、フォークランド・パレスと庭園が売られてしまったり、その土地に新たな建物が造られるのを防ぐことが理由であったとか。

莫大な相続税が払いきれず、イギリスやスコットランドのマナーハウスやガーデンの多くが維持できずに売りに出されてしまうことを考えると、今もなお、こうして歴史あるフォークランド・パレスと庭園を眺めることができるのは、クリフトン・ステュアート家の賢明な判断があったからかもしれません。

フォークランドの可愛らしい村とその村の真ん中に立地するフォークランド・パレスと庭園は昔から人気が高く、多くの来場者を迎えるために1965年、ビジター・センターが宮殿の横、メインストリートに沿って建設されました。

こちらのビジター・センターではスコットランドらしいお土産も手に入り、植物も販売されています。またこの裏手から出ると、フォークランドパレスの庭園へと道が続いています。

現在はナショナル・トラストが庭園のデザインや植栽のバランスを考慮しながら、パーシー・ケインが残したガーデンを彼のルールに従いながら管理しています。

宮殿と変わらぬほど歴史的価値を持ち、その高い芸術性と完成度を誇る庭園を維持し続け、今でもたくさんの人々を魅了しているのです。

フォークランド・パレス&ガーデンへ行ってみよう!

多くの物語を持ち古い歴史を感じることのできる、スコットランド王室に深くかかわりのある宮殿と、変化を遂げてパーシー・ケインの手によって蘇った庭園。

そしてその周囲を彩る、かつてと変わらぬ美しさを今もまだ持ち続けるフォークランドの村は、スコットランドに滞在するチャンスがあればぜひ訪れて欲しい場所のひとつになります。

フォークランドまでの行き方は、他の多くのガーデンへ行く場合と同じく、車での移動が一番楽なものになります。というのも、フォークランドの近くには列車の駅がないためです。その他の交通公共機関を利用する場合は、バスでの移動となります。

エディンバラからフォークランドまで行く場合には幾つかの方法があるのですが、そのうちのひとつはエディンバラのプリンセス・ストリートにあるバス停からX59番、セント・アンドリュース行きのバスに乗ります。

約1時間15分後、Auchmuty Roadで下車し、今度は66番のBurnside 行きのバスに乗り換え 、約15分後にフォークランド・パレスのバス停で下車します。(2018年の情報です)

スコットランドでバスを利用する際に気を付けて頂きたいことは、こちらのバスは停車の際にその場所の名前のアナウンスがあることはほぼ無い、ということになります。

希望のバス停で降りたい人が車内にあるバスストップ・ボタンを押し、運転手さんに伝えるかたちになりますので、誰も乗り降りする人がいない場合には、バスは停まらずそのまま次の目的地に進んで行ってしまうのです。

また、観光地として知られているフォークランド・パレスですが、バス停は上の写真のようにとても小さいものになります。

バス停の位置も村の中心地にはなく、まだ村が見えない場所にあるので到着しても気がつかない場合も。バスに乗った際には運転手さんに目的地に着いたら教えてください、と頼んでおきましょう。

交通公共機関ではちょっぴり行きにくいと感じるかもしれませんが、フォークランドの村、そして宮殿とガーデンはそれだけの労力を払っても行く価値のある場所。

人気海外ドラマ『アウトランダー』ファンの皆さんはもちろん、スコットランドの田舎の村を楽しんでみたい方にもぜひおすすめしたい場所となります。

フォークランド・パレス&ガーデンの入場時間や料金など、詳しい情報を知りたい方は下記のウェブサイトを参考にしてくださいね。