スコットランドでガーデンを楽しもう!~モンティヴィオット・ハウス・ガーデンズ~

スコットランドのボーダーズ・エリアには、広大な庭の中に、それぞれスタイルの異なるガーデンを持つ、非常に個性豊かな庭園があります。今回はエリアごとに違う表情を楽しむことが出来る、モンテヴィオット・ハウス・ガーデンズをご紹介します!

もし、大きな庭を持ったとしたら、どのような庭にしてみたいでしょうか? さらにそのサイズが30エーカー(約121,406㎡、約36,725坪)という広大なものであったら?

全体の統一感を考えると、すべてを同じテイストの庭にするのが一般的かもしれませんが、もしかすると人によっては、エリアごとに違うスタイルにチャレンジしてみたいと思うことがあるかもしれません。

そんなガーデナーにとっては夢のような挑戦を、実現してしまったのが今回滞在したモンティヴィオット・ハウス・ガーデンズになります。

30エーカー、東京ドーム約2個分というサイズは、通常では想像することすら難しい大きさの庭なのではないでしょうか。

モンティヴィオット・ハウス・ガーデンズでは、そんな大きなサイズの庭をエリアごとに分け、他ではあまり見ることのない、各セクションを時代やスタイルもまったく異なるものとした、個性あふれる庭園として公開しています。

実はモンティヴィオット・ハウスのガーデンは、現時点ではすべての計画が終わったわけではありません。

幾つかのエリアはこれから完成していく庭であり、すでに完成しているクラシカルな庭と、これから出来るであろうモダンなガーデンが共存しているという、とてもユニークな庭園です。

また、カントリーハウスのガーデンづくりの途中経過という、滅多に見ることの出来ない場面を、今回のガーデン滞在では堪能することが出来ました。

多くのカントリーハウスがそうであるように、モンティヴィオット・ハウスも入り口のゲートから邸宅、そして庭までは長い距離があります。

意外にも、カントリーハウスの入り口にはつきものの、以前は門衛小屋と呼ばれていた、ゲートの開け閉めを行う使用人が住んでいた住居は見当たりませんでした。

また、開放的な邸宅らしく、門の塀が他の家に比べても非常に低かったのが印象に残っています。

ゆっくりガーデンを楽しみたい方に。スコットランドはおすすめの場所

滞在した日は平日、それも午後2時過ぎという中途半端な時間だったせいか、他の入場者の方をまったく見かけませんでした。

そのため、モンティヴィオット・ハウスの広いガーデンをひとり占め出来たかのような、とても贅沢な時間を過ごすことが出来ました。

これがスコットランドでのガーデン滞在をおすすめしたいポイントのひとつとなります。と言うのも、イギリスの有名なガーデンの場合、来場者の数が非常に多い場合があるのです。

それだけイギリスのガーデンは魅力的で人気が高く、世界各国から多くのガーデニングファンがイギリスに訪れている証拠でもあるのですが、あまりに混んでいるとざわざわとして、何だか落ち着かないことも。

もしのんびりと静かな中でガーデンを鑑賞したい、あるいは花やガーデンの写真をじっくりと撮りたいという方には、ぜひスコットランドのガーデン滞在をおすすめします。

週末やお休みなどの特別な日でない限り、スコットランドのガーデンが混んでいることがあまりなく、自分のペースでゆっくりとガーデンを堪能出来るに違いありません。

モンティヴィオット・ハウスの持ち主、カー一族

スコットランドのボーダーズ・エリアに位置するモンティヴィオット・ハウスの土地は、16世紀からカー一族によって維持されてきています。

カー家は『フロアーズ・カースル・ガーデン』でご紹介した、フロアーズ・カースルの持ち主であるカー家と同じ姓となります。

このカー一族はスコットランドのボーダーズ・エリアでは、古くは12世紀ごろから近隣の土地所有者の名前として、歴史上に頻繁に出て来る姓であり、ふたつの家系の祖先は同じとなります。

16世紀にカー家がモンティヴィオット・ハウスの土地を手にするまでは、この場所は教会の持ち物であり、古い礼拝堂と埋葬地の跡が、森林の中にまだ残っているそうです。

マーク・カーが、かつてスコットランドのエディンバラやグラスゴーなども含むローランド地域である州であった、ロージアンの第1伯爵となったのは1606年のことでした。

彼の息子であるロージアン第2伯爵であるロバート・カーには息子がおらず、娘のアン・カーに爵位が継承され、彼女の息子であるウィリアム・カーが1631年にその爵位を引き継ぎます。

ウィリアム・カーは、実際にはロージアン第3伯爵となりますが、新世代・第1伯爵と呼ばれており、その後の伯爵はすべて新世代の番号で数えられています。

その後1701年に、カー家の第4伯爵であるロバート・カーは侯爵の位を得て、ロージアン第1侯爵となりました。

そのロバート・カーが、この場所に釣りをするための小さなロッジを建てたことが、モンティヴィオット・ハウスの始まりと言われています。

その後、第7侯爵であるジョン・ウィリアム・ロバート・カーは1832年、バッキンガム宮殿の最終建築に携わり、またウィンザー城やハンプトンコート宮殿の修復など、国の最も重要な建造物を多く手掛けていた、芸術家であり建築家として著名なエドワード・ブロアに依頼し、それまでのパラディアン・スタイルであったヴィラを大幅に改装しています。

また、第9侯爵であるションバーグ・カーは芸術的な才能に恵まれ、優れた森林管理者でもありガーデナーでもあったそうで、彼の時代にモンティヴィオット・ハウスの庭園の基礎が作られています。

1962年、第12侯爵であるピーター・フランシス・ウォルター・カーは、自身の従弟であるションバーグ・スコット・カーにモンティヴィオット・ハウスのデザインの修復を依頼し、邸宅の改装が行われました。

また、同じ時代には有名なガーデン・デザイナー、パーシー・ケインのデザインによる、庭園の修復も行われています。

さらに現在の持ち主である第13侯爵マイケル・アンドリュー・フォスター・ジュード・カーとその夫人ジェーンにより、今もなお庭や邸宅の改装や改良は続けられています。

モンティヴィオット・ハウスのガーデン

モンティヴィオット・ハウスのガーデンは、ジャコビアンスタイルの美しい邸宅の周りからスタートしており、また30エーカーという広大な敷地を散策するには、かなりの時間が必要となります。

ひとつの庭から次の庭へ移動する時も、時間がかかる場合がありますから、滞在の際には時間に余裕を持って予定を組むのをおすすめします。

モンティヴィオット・ハウスの庭園で最初に目に入るのは、邸宅のすぐ前に位置されているハーブ・ガーデン。こちらは第9侯爵であるションバーグ・カーによって作られたそうです。

なお、モンティヴィオット・ハウスのガーデンの大きな特徴は、敷地内に流れている、ツィード川支流であるティヴィオット川をよく見渡せるためにか、邸宅は高い立地に建てられており、庭園は川に向かった方面に、傾斜を利用して作られていることにあります。

そのため庭園を散策するには、ゆるやかな傾斜を描いた庭園を、下へ降りていくように設計されており、その傾斜を上手く活用したレイアウトが、庭にドラマティックな景観を生み出しているのです。

モンティヴィオット・ハウスのローズ・ガーデン

モンティヴィオット・ハウスのガーデン滞在で最も印象的で、お気に入りとなったのが、クラシカルでエレガントなローズ・ガーデンです。

また、モンティヴィオット・ハウスの特徴である、傾斜を利用した庭園の素晴らしさを実感できる場所でもあります。

英国の庭園でよく目にすることが出来る、庭の周囲に壁を使うウォールド・ガーデンですが、モンティヴィオット・ハウスではその壁が非常に高いことが特色となっています。

後でご紹介するリバー・ガーデンを設計した、英国の著名なガーデン・デザイナー、パーシー・ケインの設計の一部であったというこのローズ・ガーデン。

高い壁を持つために庭園の中では最も暖かい場所と言われており、その壁を利用した植栽がとてもロマンティックな雰囲気です。

バラの品種は現在の持ち主である第13侯爵の時代に植え替えられ、多くのバラは英国で高い人気を誇るディヴィッド・オースティンのものだそうです。

ローズ・ガーデンの高い壁の前面には、段差を付けた石造りの花壇、そしてその前方にはフォーマルな雰囲気をかもし出す、垣根で縁取られたバラの花壇があります。

残念ながら滞在した2017年の7月は、スコットランドはいつにも増して寒い夏だったため、モンティヴィオット・ハウスのローズ・ガーデンも少し寂しい印象でしたが、満開に咲き誇った時にはさぞかし素晴らしい景観であるに違いありません。

モンティヴィオット・ハウスのリバー・ガーデン

先にご紹介したように、モンティヴィオット・ハウスはティヴィオット川を前にして建てられているのですが、この素晴らしい景色を眺められるのは、ローズ・ガーデンの壁の上に作られたテラスとなります。

著名なガーデン・デザイナーであり、ガーデンに関する本も多く残し、またチェルシーフラワー・ショーで何度もメダルを獲得していたパーシー・ケインは、その時代に数多くのイギリス、スコットランドの庭園をデザインしており、モンティヴィオット・ハウスのリバー・ガーデンもそのうちのひとつになります。

『リバー・ガーデン』という名前のとおり、モンティヴィオット・ハウスの言わばメイン・ガーデンでもあるこの場所は川岸まで広がっており、レイアウトはイタリア様式庭園の影響を受けていると言われています。

ガーデンの最上部にある、庭の全貌を眺められる場所にはアルコーブ、つまりくぼみを利用したシッティングエリアがあり、とてもエレガントな雰囲気。
緑で覆われたシッティングコーナーは、ガーデンとティヴィオット川を眺められるだけでなく、美しい庭園にインパクトを与える存在となっています。

キングサリのツリーウォーク

残念ながら滞在した日には、すでにシーズンが終わってしまっていたキングサリのツリーウォークは、現在の持ち主である第13侯爵によって作られたもの。次回はぜひ満開の季節に訪れたいと思います。

このツリーウォークを通り過ぎると、個性豊かなモンティヴィオット・ハウスのその他のガーデンに滞在することが出来ます。

オリエンタルなウォーター・ガーデン

リバー・ガーデンの先は森林地帯となり、あまり陽が差さないエリアとなるのですが、そんな環境を利用して作られたのが、オリエンタル・スタイルのウォーター・ガーデンとなります。

エキゾチックな雰囲気にあふれたウォーター・ガーデンは、日本のスタイルを多く取り入れたものだそう。
また立地条件をよく理解して、日陰でも育つ植物が多く植えられていたのが印象的でした。

完成が楽しみな『Garden of Persistent Imagination』

そして現在作っている最中であるのが、『Garden of Persistent Imagination』、永続する想像力の庭、というタイトルが付けられたエリアです。

このエリアのデザインはサルバドール・ダリと、グラスゴー美術学校やウィロー・ティールームなど、現在でもその功績を見ることが出来る、スコットランドの著名な建築家であり、芸術家であるチャールズ・レニー・マッキントッシュへの賛辞を題材にしているそうです。

現在はこのエリアを眺めてみても、どんな完成形になるのか今いちピンと来ず、まだまだ作っている途中経過、という雰囲気ですが、ガーデンの完成には何年もの月日がかかるもの。

次回に滞在する際にはどのように変化しているのか、それを見るのが楽しみとなる場所と言えるでしょう。

今回はご紹介しきれませんでしたが、モンティヴィオット・ハウスは他にも季節によって楽しめるガーデンセクションが幾つかあり、それぞれがまた異なる表情を持っています。

あまり通常の庭園では見ることの出来ない個性豊かなガーデンは、4月から10月までオープンしており、また邸宅も7月だけ、月曜日を除いた日に公開されています。

クラシカルな庭園、これから変わりつつあるモダンなガーデンなど、ひとつの庭園で幾つもの違う雰囲気を味わえるモンティヴィオット・ハウス・ガーデンズ。

スコットランド・ボーダーズには多くの魅力的なガーデンがありますので、他のガーデンと組み合わせて回るのも楽しいエリア。スコットランドに来た際に滞在してみるのはいかがでしょうか。

モンティヴィオット・ハウス・ガーデンズへの行き方

モンティヴィオット・ハウスへの一番簡単な行き方は、スコットランドでの多くのガーデン滞在と同じように、車での移動となります。

エディンバラからモンティヴィオット・ハウスまでの距離は約73キロ、車での所要時間はおよそ1時間20分ほどとなります。

もし交通公共機関を使う場合はなかなか難しくなるのですが、エディンバラのウェイバリー駅からGalashiels ガラシールズ駅まで列車で約1時間。

その後、ガラシールズのバスステーションであるTransport Interchangeで68番のバスに乗り、約40分ほど乗車し、Ancrum South Myrescroftで下車します。

ここから約2キロ、30分弱歩くとモンティヴィオット・ハウスへ到着します。バスの時刻表は下記のウェブサイトをご参照ください。

バスの下車する場所であるAncrum South Myrescroftからは、下記でご紹介しているオフィシャル・ウェブサイトから地図をプリントアウトしてくださいね。

もし2キロの距離を歩く自信がないという方は、少し遠くなりますがガラシールズ駅からタクシーで行くのがおすすめです。
タクシーを見つけたら往路の予約もお忘れないように。駅でタクシーが見当たらない場合には、駅員さんに尋ねてみましょう。

ガーデンの場所や料金など、詳しい情報は下記のウェブサイトを参考にしてくださいね。