イングリッシュガーデンを巡る旅 ~ キフツゲート・コート・ガーデンズ Vol.2 ~

一族の女性3代に渡り引き継がれてきた、英国内でも著名な庭園であるキフツゲート・コート・ガーデンズ。美しく洗練された庭と優雅な邸宅は、訪れる人々を惹き付けて止みません。今回はこの魅力あふれるキフツゲート・コート・ガーデンズの庭園の魅力をご紹介します。

キフツゲート・コート・ガーデンズの魅力

英国内に存在する数多くのガーデンの中でも、世界中にたくさんのファンを持つキフツゲート・コート・ガーデンズの魅力は、とてもひと言では言い表せないほど。この広大な敷地の中はいくつかのセクションに分かれており、それぞれのエリアに数多くの見どころがあるのです。

エレガントな邸宅とそれに似合った優しくフェミニンな植栽とカラーリング、そしてアップダウンの激しい土地を利用したドラマティックな景観。

キフツゲート・コートの敷地内に足を踏み入れても、すぐにはガーデンの全貌を見ることはできません。庭を眺めながら散策していると、ロマンティックなシーンが次々に現れ、徐々にこのガーデンの魅力、歴史によって生み出された風景が明らかになっていくでしょう。

3世代の女性オーナーたちが時間をかけてつくり出した庭園の中で、まるで物語のページをめくるように目の前に繰り広げられる美しい情景の数々。滞在すれば誰しもがきっとこの庭園に魅了されてしまうに違いありません。

フォー・スクエア

キフツゲート・コート・ガーデンズに訪れたらまず邸宅の正面から入園し、現在はカフェとなっている左手から内部の庭園へと歩きます。

ここに見えるのは日時計を中心とした、フォー・スクエアと呼ばれる4つの花壇に分かれたフォーマル・ガーデンです。

庭と優雅な邸宅がひとつになって完成してるキフツゲート・コート・ガーデンズ。その建物であるキフツゲート・コートの象徴とも言えるポーティコの前方に、フォー・スクエアは配置されています。

フォーマルなレイアウト、そして気品ある色合いの植栽を施したデザインが、歴史ある建物ととけ合ったとても印象的なエリア。メインとなるカラーはピンク、そしてモーブといったシックな色彩です。

また、キフツゲート・コート・ガーデンズでは葉や垣根、中低木のグリーンがとてもあざやかことに気付かされます。

現在のオーナーであるアン・チェンバーズはインタビューで、葉はガーデンにおいて非常に重要な存在である、なぜなら葉は花がよりもずっと長くその姿を見せているのだから、と述べています。

その言葉通り、緑の眩しいカラーが庭づくりにおいて、どれほど重要なのかということを、入園して最初に目にするこのフォー・スクエアで納得できるに違いありません。

レッド・ボーダー


フォー・スクエアから一段低い部分にある花壇は、小さなレッド・ボーダーになっています。今年の植栽はグラデーションというよりは、ほぼ赤をメインにした植栽だったのですが、これがまたとてもシックで、上品な印象でした。

通常赤のようなインパクトのある単色を使用すると、少々くどい雰囲気にもなりがちなのですが、レッド・ボーダーの洗練された植栽は、みずみずしいリーフと美しいコントラストを描いており、とてもエレガントで場を引きしめる効果も抜群。

キフツゲート・コート・ガーデンズは植栽のカラーリングの美しさにおいて定評があるガーデンですが、実際目にするとその評価はもっともだと納得です。

ワイド・ボーダー

小さなレッド・ボーダーのエリアを抜けていくと、奥に続く道があり、このエリアがワイド・ボーダーと呼ばれています。

このワイド・ボーダーは真っ直ぐなラインの道ではなく、ゆるやかなカーブを描いた優しい印象のレイアウトとなっています。また植栽も同じく、やわらかな雰囲気を持つ花々を選んだエリア。

ワイド・ボーダーは芝生が張られたゆったりとした道を歩きながら、そのサイドに咲き誇る花を楽しめる場所となっています。

また、この場所から見上げるとキフツゲート・コートのもうひとつのポーティコが見えるのですが、この風景も何とも美しいものでした。

フォー・スクエアからレッド・ボーダー、そしてワイド・ボーダーへ続く道の途中では、急斜面の下に絶景が広がっています。

この場所は、実際のキフツゲートの敷地はかなりアップダウンの激しい形状をしているのだということが、最初に理解できるエリアでもあります。

ホワイト・サンク・ガーデン

ワイド・ボーダーの終わりのエリアからキフツゲート・コートへ向かって歩き、もうひとつのポーティコとテラスの下の部分にあるのが、ホワイト・サンク・ガーデンです。

このエリアはキフツゲート・コート・ガーデンズの初代のオーナーであるヘザー・ミューアによって、白を基調とした植栽でスタートしたそう。

その後1972~3年にかけて、2代目のオーナーであるダイニー・ビニーが中央にプールを建設し、またカラーリングも白だけでなく、華やかな色彩がプラスされてています。

このプールの中央にある噴水はダイニー・ビニーがチェルシー・フラワー・ショーで購入したものだそうで、ピレネー山脈からきたというこの噴水には、収穫や狩猟、ワインづくりなどを表した12枚の絵が石に刻まれています。

このホワイト・サンク・ガーデンはその名のとおり、ガーデンの部分の土地が沈んで(サンク)いる形状をしています。

その後アン・チェンバーズの時代に、邸宅に近い部分に1トンのあら砂を加え、乾燥に強い品種を植えたそう。そしてここはピンクのグラデーションカラーをメインとした植栽が特徴的です。
今回キフツゲート・コート・ガーデンズの数多くのエリアの中で、最もお気に入りとなったのが、このホワイト・サンク・ガーデンの邸宅寄りの場所でした。


さまざまなピンクの色彩を中心に、淡いトーンを使った繊細なカラーリングが非常に印象的で、植物と建物とのコンビネーションがまたとても美しく、しばしうっとりと見惚れてしまうほど。このエリアはどこを見ても色あざやかで、心に刻まれるシーンが広がっていました。

女性らしい植栽とカラーリングと呼ばれるキフツゲート・コート・ガーデンズですが、その言葉をもっとも感じられたのは、このエリアだったかもしれません。

ウォーター・ガーデン

3世代の女性たちによって継承されたキフツゲート・コート・ガーデンズですが、それぞれのオーナーの手によって、その時代にあった特徴を残しています。

このウォーター・ガーデンは、3代目のオーナーであるアン・チェンバーズがかつて1930年代、ヘザー・ミューアの時代に建てられたテニスコートだった場所に、新たに建設されたものとなります。

彫刻家のサイモン・アリソンによって建設されたモダンで洗練された噴水のあるウォーター・ガーデンは、静寂さの中に清涼感をもたらしたもの。

滞在した日はとても天候に恵まれて汗ばむような気温でしたが、水の流れと風の気配を感じさせる、すがすがしい雰囲気に満ちあふれたこの場所にいると、心身ともにリラックスすることができました。

イエロー・ボーダー

ウォーター・ガーデンへの行く途中、ローズ・ボーダーと隣同士の位置にあるのがイエロー・ボーダーです。ここは黄色、オレンジ、そしてブルーの花を植栽しているボーダーで、英国では多くの庭園で見られるホットカラーの植栽に、ブルーを足したところが特徴的です。

これと同じカラーリングはヒドコート・マナー・ガーデンでも見られたのですが、キフツゲート・コート・ガーデンズの植栽はやはりここもやわらかな印象のものを選び、色彩もフェミニンな雰囲気に仕上げています。

イングリッシュガーデンに滞在した際にカラーリングで驚かされるのが、黄色と青という反対色を本当に見事に使いこなしているところです。

反対色を使って庭にアクセントを入れる、メリハリの利いたカラーリングというよりも、存在感がありながらも共存する花を用いて、どちらの色の花も反発させることなく馴染ませているのです。

このエリアは季節によって咲く花が変わるらしいので、違うシーズンもぜひ見てみたいと思わせる場所でした。

バンクス&ロウワー・ガーデン

キフツゲート・コート・ガーデンズの中でも、圧倒的な景観を誇るのがバンクス&ロウワー・ガーデンです。

バンクスとは急斜面、という意味ですが、まるでそそり立つ壁のようにも見える急斜面を利用し、1代目のオーナーであるヘザー・ミューアがイタリア人の庭師の力を借りて作り上げた、あまり他に例を見ないドラマティックな景観を持つエリアとなっています。

1930年代には斜面を階段で降りていく中間の場所にサマー・ハウスが建てられ、ここから眺めることのできる景色はまさに絶景と言えるでしょう。
その後、この半円形の芝生の部分に2代目オーナーであるダイニー・ビニーによってプールが設計されています。ここから見上げるキフツゲート・コートまでの景観も素晴らしいのひと言です。

ここは敷地内でも太陽を最も多く浴びるエリアで、逆に気温が高すぎることもあるのですが、乾燥に強い柑橘類やローズマリー、セアノサスといった植物を植えているそうです。

ヘザー・ミューアは夏の夜、このサマーハウスでワインを片手に過ごす時間がとても好きだったそう。こんな雄大な景色を堪能できるサマーハウスが自分の庭にあるなんて、どんなに素晴らしいことだろうと思わずため息が出てしまいます。

たくさんの見どころがあるキフツゲート・コート・ガーデンズ

キフツゲート・コート・ガーデンズは地図上では15のエリアに分かれ、それぞれの特徴を活かしたガーデンが存在します。今回ご紹介しきれなかったエリアも多いのですが、その中のひとつがローズ・ボーダーになります。
ここには英国最大のバラとも呼ばれている、1938年にヘザー・ミューアによって植えられ、グラハム・スチュアート・トーマスによって命名された、この庭園の名を持つキフツゲート・ローズや、クラシックなバラからモダンな品種までさまざまな種類のバラを堪能できるエリア。

しかし滞在した日は初夏の開花シーズンを終え、既に花がら摘み、剪定を行っており、残念ながら写真のようなスッキリとした状態で、咲き誇るバラの姿を眺めることはできませんでした……。
ローズ・ボーダーはキフツゲート・コート・ガーデンズの大きな見どころのひとつと言えるエリアですので、次回はぜひ、バラの季節に来訪したいと思います。

後世へ渡り継がれる、ガーデナーの理想の庭園

レイアウトから植栽に至るまで自身で考え抜き、そして丹精込めて植物を育て、長い時間をかけてつくり上げた自分の庭。

そんな庭づくりを愛するガーデナーの方であれば、自分がつくった庭はこの後、いったいどうなるのだろうと一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

まるで自分の人生を表したかのような大切な庭が、いつか消えてなくなってしまうかもしれないと考えるのは、とても辛く悲しいことです。

いつか自分自身の手で庭の手入れをすることができなくなる日が来ても、その庭が後世へと受け継がれ、永遠にその姿を残していくことができる……。それはすべてのガーデナーにとっての夢と言えることかもしれません。

そんなガーデナーの理想を叶えたのが、一族の女性3世代に渡って受け継がれてきている、このキフツゲート・コート・ガーデンズです。

それぞれのオーナーが持つセンスと情熱をそそぎ込み、時代を超え存在し続ける美しい庭園が、これからもずっと、すべてのガーデンファンを魅了してやまない場所であり続けて欲しいと願います。

エレガントなレイアウトと植栽、そしてやわらかなカラーリングと優雅な邸宅。たくさんの見どころにあふれたキフツゲート・コート・ガーデンズへ、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

キフツゲート・コート・ガーデンズへの行き方

キフツゲート・コート・ガーデンズへの行き方は、交通公共機関を使うのであれば最寄りの駅はHoneybourne 駅となります。

駅からガーデンまではタクシーで約15分ほどで到着します。しかし駅前にはタクシー乗り場はありませんので、必ず事前にタクシーの往路、復路の予約をお忘れなく。

もしゆっくりと時間を取れるのであれば、コッツウォルズ地方の旅行中にこのガーデンに滞在する方法もおすすめです。

なお、キフツゲート・コート・ガーデンズは以前ご紹介したヒドコート・マナー・ガーデンと、徒歩5分ほどしか離れていませんので、ぜひふたつのガーデンをカップリングで滞在することをおすすめします。

個人の庭園であるキフツゲート・コート・ガーデンズはオープンする時間や曜日が限られていますので、下記のリンクをご参照の上、スケジュールを組まれてくださいね。