イングリッシュガーデンを巡る旅 ~ サラ・レイヴンの庭 パーチ・ヒル Vol.1 ~

イギリスのセレブリティ・ガーデナーの一人であり、作家、料理家、TVプレゼンテーターなどさまざまな顔を持つサラ・レイヴン。今回はそんな才能あふれる彼女と夫のアダム・ニコルソンが住む農場にあるガーデン、パーチ・ヒルのレポートをお届けします!

サラ・レイヴンとパーチ・ヒル

ガーデニングを愛する国である英国では、TVではたくさんのガーデニング番組が放映され、数多くのガーデニング雑誌や書籍が販売されています。そして多くのセレブリティ・ガーデナーがおり、TVに出演したり本を出版したりと、それぞれが多くのファンを得ています。

今回ご紹介するパーチ・ヒルのオーナーである、サラ・レイヴンもそのひとり。彼女の名前を店名とした「sarah raven」オンライン・ガーデンショップのオーナーであり、ガーデナーの他にも料理家、作家、TVプレゼンターとして活躍している女性です。

私も彼女の大ファンであり、毎年彼女のショップで花の苗や種を購入しています。
他のオンラインショップに比べるとちょっと高いイメージがあるサラ・レイヴンのお店ですが、品種は豊富で、鮮度の良いものが多く、そして素晴らしくセンスが良いのが特徴です。
(ちなみに苗が入れられた梱包もとても可愛いのです!)

そんな彼女が家族とともに暮らし、そして庭づくりをしつつ、スクールを開いている場所が、イギリス南東部、イースト・サセックスにあるパーチ・ヒルです。

彼女の庭、パーチ・ヒルは限られた日数ではありますが一般公開されており、今回このガーデンに滞在できるのを楽しみにしていました。

その期待を裏切られることはなく、本当に素晴らしかったパーチ・ヒルのガーデン。サラ・レイヴンのガーデニングの才能と愛情を存分に感じられる庭園でした!

医学の道からガーデナーへ

セレブリティ・ガーデナーとしてサラ・レイヴンの経歴はちょっと異色であると言えるかもしれません。ザ・タイムズの記事によればケンブリッジ出身のサラはエディンバラ大学で歴史学の学位を得て、一度友人とフローリストの店を始めます。

その頃、夫となるアダム・ニコルソンと出会った彼女は進む道を変更し、ロンドン大学で医学を勉強し始めました。しかしガーデニングに対する情熱は冷めることはなく、西ロンドンで暮らしていた時代も、小さな庭でたくさんの植物を育てていたそう。

彼女は自分が植物に惹かれたのは、古典学者であり、植物学を研究していた父、ジョン・アール・レイヴンの影響が大きかったと述べています。

彼女と結婚したアダム・ニコルソンが、彼の姉妹の友人であったサラと出会ったのは、最初の結婚が終わりを告げ、従弟と立ち上げた出版ビジネスも暗礁に乗り上げていたころだったそうです。

二人が一緒に暮らし始めたのち、ある日路上で強盗にあった彼はロンドンでの生活に嫌気がさし、田舎で暮らしたいと思い始めたと、彼は自身の著書「Perch Hill」で述べています。

サラの夫となったアダム・ニコルソンは多くの雑誌や新聞に寄稿するジャーナリスト、コラムニストであり、多くの著作を持つ作家ですが、彼の祖父母はシシングハースト・カースル・ガーデンの創造主であった、ハロルド・ニコルソンとヴィタ・サックヴィル=ウェストになります。

その後、現代の著名なガーデナーとなったサラが、英国で最も有名な庭園のひとつを造り上げた孫と恋に落ちて結婚に至るとは、驚くような偶然です。

シシングハースト・カースル・ガーデンはその当時、既にナショナルトラストの管理下にありましたが、彼の父親であるナイジェル・ニコルソンはまだシシングハーストに住んでいたため、サラとアダムはその近くに家を探し出します。

そして1994年、イースト・サセックスにあるバーウォッシュのほど近くに、二人はパーチ・ヒルと呼ばれる90エーカー(約36,000㎡、東京ドーム7.8個分)の敷地と古い農場を見つけ、そこへ生まれたばかりの娘を連れてロンドンから移り住んだのでした。

ガーデンの魅力がたっぷり味わえるパーチ・ヒル

サラ・レイヴンとアダム・ニコルソンが移り住んだ当初、かつては酪農場として使われていたパーチ・ヒルは、家も庭もぼろぼろの状態だったそうです。

たくさんのコンクリート、そして波型のトタンにあふれていたというパーチ・ヒルを、今のように素晴らしいガーデンにするには並々ならぬ努力があったに違いありません。

パーチ・ヒルは農場、納屋、ホップの乾燥所、家畜小屋の他に、サラがスクール、ショップとして利用している場所と温室といった6つの建造物があり、そして広大な庭は全部で12のセクションに分かれています。

そのひとつひとつに見どころがたくさんつまっており、どれもガーデナーであればため息もののエリアばかり。どの場所もサラの植栽やカラーリングの才能を存分に味わえるに違いありません。

多年草のカッティングガーデン

春から秋にかけて、月に数回だけオープンするパーチ・ヒル。
滞在した日には入園時間より前に到着したにも関わらず、すでに駐車場はたくさんの車が停まっており、オープンを待ち構えている人でいっぱいでした。


西洋スモモの果樹園を抜け、最初に見えたのは多年草のカッティングガーデンです。
サラ・レイヴンは花を庭だけでなく、切り取って楽しむ「カッティングガーデン」をイギリスで流行らせたガーデナーの一人として知られているだけあって、その規模はとても大きなものでした。

すでにこのエリアからサラの植栽、カラーリング、そしてエクステリアのセンスが盛りだくさんにつめ込まれています。

四角いシンプルなレイアウトの中で、古びたアイアンを使ったアーチが中心でクロスしており、その中央にはシッティングエリアとなっています。

周囲には色あざやかな花が咲き乱れ、ナチュラルな支柱や垣根を使い、フェミニンで優しい雰囲気に満ちあふれた印象的なエリアでした。

訪れた人たちは一番最初に見えるこのエリアで歓声をあげていましたが、それももっともなことだと思います。

一年草のカッティングガーデン


多年草のカッティングガーデンのすぐ横に配置されていたのが、一年草のカッティングガーデンです。ここでは耐寒性、もしくは半耐寒性の一年草、もしくは二年草の植物を植えているそう。


しかし多年草のガーデンでも、一年草のガーデンでも、同じ品種も多く植えられており、あまり厳格に分けているのではなさそうな印象でした。


ここではダリアやコスモス、スカビオサやスイートピーなど、野趣いっぱいの可憐な花々と、これもまた最近の大流行であるスティパなどのオーナメンタル・グラスと組み合わせ、印象的なシーンを造り上げていました。


パーチ・ヒルの過去の写真を見てみると、ガーデンは年々姿を変えており、翌年にはまた違った雰囲気になっているかもしれません。しかしそれがまたこの場所に何度でも訪れたいと思わせる魅力のひとつになっているような気がします。

このエリアはガーデンの一番奥にあるシェッドをフォーカルポイントに、レイズドウッドを使って花壇が造られています。花以外にも、サイドでは野菜も数多く育てられていました。
良い感じに古びたシェッドを見ると、屋根には波型のトタンが。これはかつて、パーチ・ヒルにあったものなのではないでしょうか?決して豪華ではないけれど、そのシャビーな雰囲気がとても庭園に似合っていたシェッドでした。

トライアル・ガーデン & ダリア・ガーデン

カッティングガーデンより通りを隔て納屋の前方にあるエリアは、トライアル・ガーデンのひとつとなっています。ダリアと菊科の花々はサラ・レイヴンのショップでも数多くの品種が販売されていますが、このエリアで新しい品種を種から植えて育てているそうです。

サラのショップで販売されている苗はその殆どがこのパーチ・ヒルで実際に育てられたものだそう。ここでどのような育ち方をするか、日当たりや水の量などを詳しくチェックしているそうです。

サラ・レイヴンのショップでは「初心者の人も分かりやすく、育てやすいものを」多く取り揃えており、さらに彼女が動画で詳しく説明もしています。サラ自身が実際にこの場所で育てているからこそ、注意点や成長の様子が良く分かっているのでしょう。

サラ・レイヴンのショップで購入した苗は他のお店と比べて値段は少々高くなるものの、苗はとても元気が良く発育も良いのが特徴です。

パーチ・ヒルに滞在するまでは、セレブリティ・ガーデナーのブランドだから価格が高いのかな?と勝手に想像していましたが、販売する前にそのような努力があったと聞いてとても納得できました。

イギリスでこの数年、大流行となっているダリアですが、サラ・レイヴンのショップでもとても多くの品種を取り揃えています。毎年新しいダリアがお目見えし、カタログやウェブサイトでそれらを見るのが楽しみとなっています。

彼女のショップのダリアはどれも本当に美しく、一体どれを選べば良いのか、毎年大きな悩みとなってしまいます。毎年秋になるとサラ自身がオランダに買い付けに行き、そしてこのエリアで育てているのだそう。

このダリア・ガーデンは本当に圧巻で、今まではオンラインショップで見かけるだけだった多くの種類が実際に育っている姿を眺めることができ、とても感動したエリアでした。

ダリアは育つと1メートルを超えるものが多く、他の花とのバランスに悩んでいたのですが、ダリアだけでもこんなに素晴らしいガーデンになるのだと感嘆させられました。

また私自身も庭で育てている、上の写真のように花がとても大きい「Cafe au Lait」、あるいは「Belle of Barmera」といった品種は、花の重さで茎が折れてしまうことも多いのですが、どのように支えれば良いのかといった点も実際に見ることができて、とても勉強になりました。

自分の庭に取り入れられるヒントがいっぱい!

何百年もの歴史を持つ大邸宅の庭園は、見ていてとても美しいものですが、その規模はあまりに広大で自分の庭にはなかなかそのアイデアやセンスを活かせないことがあるかもしれません。

その点サラ・レイヴンのパーチ・ヒルは、敷地面積自体はとても大きいのですが、たくさんのエリアに分かれ、植栽やカラーリングなど、すぐにでも自分の庭に取り入れたいヒントがいっぱいです。

次回はパーチ・ヒルのその他のエリアと、サラ・レイヴンの植栽やカラーリングについてレポートをお届けします!