スコットランドでガーデンを楽しもう! ~フロアーズ・カースル~

スコットランド南東部、ボーダーズエリアに位置するフロアーズ・カースルは、ロックスバラ公爵の邸宅として知られています。 非常に優雅で美しいカントリーハウスを持ち、広大な敷地を誇るフロアーズ・カースルには、大きさでも、そして華やかさでも群を抜いたガーデンが存在します。 今回はスコットランドとイギリスとの国境に近い場所にある、美しく色鮮やかなフロアーズ・カースルのガーデンのレポートをお届けします!

ロックスバラ ~ スコットランド・ボーダーズ ~

スコットランドで最大の大きさを誇る邸宅と呼ばれているフロアーズ・カースル。持ち主は現在で10代目となるカー公爵家となります。

場所はスコットランド・ボーダーズにあり、その名の通りボーダーズとはイギリスとスコットランドの国境に隣接するすべての郡を指しています。

またフロアーズ・カースルが位置するロックスバラシャーは歴史的に、イングランドとの紛争に度々襲われており、このエリアでは多くの城、修道院、そして街の遺跡が見る事の出来る地域。

このボーダーズ・エリアには以前4つの地区に分かれており、そのうちのひとつがロックスバラでした。

ロックスバラは15世紀に滅びた街、ロイヤル・バラにちなんでその名がつけられています。

フロアーズ・カースルはケルソーという街の西、ボーダーズ・エリアに流れるツイード川のほとりにあるのですが、まずエントランスから内部に入って驚く事は、その面積の大きさです。

入り口のすぐそばにチケットオフィスがあり、ここで料金を支払いますが、そこから邸宅までが遠い事! どこまで行けばいいの? と驚くほど離れた場所に到着してようやく、豪奢で華麗な邸宅が見えて来ます。

この巨大な邸宅を見ると、フロアーズ・カースルがスコットランドで最大の城と呼ばれているのも納得です。

目指すガーデンは邸宅を通り超し、美しい森を抜けたさらにその奥にあり、邸宅からの距離もかなりのもの。

フロアーズ・カースルは、カントリーハウスの素晴らしさやガーデンの美しさを目にするよりも先に、その広大な敷地に圧倒されてしまう場所でした。

フロアーズ・カースルの持ち主、カー家の歴史 ~ ロックスバラ1代目伯爵、ロバート・カー ~

フロアーズ・カースルはロックスバラ公爵、伯爵の位を持つカー家の邸宅ですが、その家の歴史は古く、彼らは12世紀ごろからロックスバラシャーに土地を持っていました。

カー家の祖先は定かではないのですが、ノルマン人であった可能性が高いと言われています。

16世紀から17世紀にかけて、スコットランドはイングランドとの闘い、またはスコットランド人同士の争いで、特にこのボーダーズエリアは常に戦闘の渦中にありました。

この期間中、カー家は、セスフォード城に拠点を置いて、国境に沿って土地の保有とその影響力を拡大していきます。

カー家は常に政治力に優れていたた家系のようで、最初に伯爵の位を得たロバート・カーはスコットランド王ジェームズ6世(のちにイングランド王ジェームズ1世)の寵臣となりました。

ジェームズ6世にとても気に入られていたロバート・カーは、エリザベス1世が亡くなった1603年、彼がイングランド王になる際にはロンドンへ同行しています。

1616年、それまでの功績を評価されたロバート・カーは、ジェームズ6世より伯爵の位を授かり、ロックスバラ1代目伯爵となりました。

フロアーズ・カースルの始まり ~ ロックスバラ1代目公爵、ジョン・カー ~

中世の間、現在のフロアーズ・カースルの周辺はケルソー修道院の修道士が所有していましたが、宗教改革の後、ジェームズ6世はロックスバラ1代目伯爵、ロバート・カーにこの敷地を与えます。

これがフロアーズ・カースルの始まりと言えるでしょう。

カー家は順調に出世を続け、ロックスバラ5代目伯爵であったジョン・カーは「ヨーロッパで最高の才能を発揮する若者」と表現されていたそうです。

彼はスチュアート朝最後の君主であったアン女王より、公爵の位を授かり、ロックスバラ1代目公爵となります。

1代目公爵という名誉な地位を得たジョン・カーは、その新しい地位を反映させるために、1721年にフロアーズ・カースルという新たな邸宅を建設する事にします。

彼は以前その場所にあった古い塔の家を、その時代にあったジョージ王朝の屋敷に変え、現在のフロアーズ・カースルの基礎とも言える邸宅を建てました。

称号存続の危機

輝かしい地位と名誉を得ていたカー家ですが、その称号の存続が危ぶまれる時期がありました。

1代目公爵と同じ名前でややこしいのですが、彼の孫に当たる3代目公爵ジョン・カーはドイツのメクレンバーグ・ストレリッツ公の長女と恋に落ちます。

しかし彼女の妹である、シャーロット・メクレンバーグ・ストレリッツが、ジョージ3世の王妃となったため、王妃の姉とは結婚出来ない決まりの為に、二人が結ばれる事は叶いませんでした。

結婚する事が出来なかった彼らは、一生独身でいる事を誓い合います。

非常にロマンティックで悲しい恋物語なのですが、この悲恋がカー家のタイトル存続に大きく関わって来る事になります。

結婚をせず、子供のいなかった3代目公爵が亡くなった1804年、従弟であったウィリアム・カーがロックスバラ4代目公爵を引き継ぎます。

しかし彼もまた子供がいないまま、3代目公爵、ジョン・カーが死去した1年後に亡くなってしまいます。

このため、公爵の地位の継承権を得るべく、カー家の親族間で、長く激しい争いが起こってしまうのでした。

ロックスバラの1代目、そして2代目伯爵から派生した4名の申立人が、裁判所で公爵の位の権利を争います。

この訴訟は7年も続き、貴族院の特権委員会に持ち込まれます。裁判所は1812年、1代目ロックスバラ伯爵の子孫であるジェームズ・イネス・カーにその権限を認める判決を出しました。

この訴訟の費用を支払うために、3代目公爵、ジョン・カーの有名なコレクションであった貴重な図書が売却されました。

3代目公爵、ジョン・カーが所持していたデカメロンの初版の価格は2260ポンドとなり、当時では莫大な金額だったそうです。

フロアーズ・カースルの設計プラン

先にも述べたように、5代目伯爵であり、1代目ロックスバラ公爵となったジョン・カーが、その地位にふさわしい邸宅を持とうとしたのがフロアーズ・カースルの始まりでした。

その際、彼はスコットランドの建築家であるウィリアム・アダム(1689~1748)に設計を依頼します。なお、この建築には1721年から1726年まで、5年の年月が費やされました。

設計を依頼されたウィリアム・アダムは、そののちに有名な建築家となるロバート・アダムの父であり、18世紀初頭ではカントリーハウスの最高建築家と言われていた人物でした。

ウィリアム・アダムは落ち着いた雰囲気を持つ、その時代の流行であったパッラーディオ風の家の計画を立て、また、彼は邸宅を取り巻くように存在するフォーマルな庭園を配置しました。

ウィリアム・アダムが設計したデザインは、現在見る事の出来るガーデンの基礎となっており、精巧な庭園と、ガーデンのレイアウトを形成したそうです。

大規模な改装 ~ 現在のフロアーズ・カースルへ ~

フロアーズ・カースルはその後、何度か改装、拡大されましたが、この邸宅を現在のように美しく蘇らせたのは、ロックスバラ6代目公爵、ジェームズ・イネス・カーの時代です。

彼は1837年に改装に着手しています。

6代目公爵ジェームズ・イネス・カーが改装を依頼したのは、のちに19世紀最高の建築家と言われ、またエディンバラやスコットランド各地で多くの建物を設計した、ウィリアム・ヘンリー・プレイフェアでした。

彼はその偉大な才能を発揮し、それまでのジョージ王朝のネオ・クラシックな邸宅を、スチュアート朝の華やかで豪華な邸宅に造り変えました。

この近くにはアボッツフォード・ハウスがあり、その住人であるサー・ウォルター・スコットは文学者らしく、フロアーズ・カースルをシェイクスピアの作品である『真夏の夜の夢』を連想したのでしょうか、「オベロンとタイタニアの王国」と呼んでいたのだそう。

フロアーズ・カースルの庭園

先にご紹介したように、フロアーズ・カースルの庭園の最初のレイアウトは、ロックスバラ1代目公爵、ジョン・カーが依頼した建築家、ウィリアム・アダムのデザインから生まれています。

現在見る事の出来るウォールド・ガーデンは、1857年にフロアーズ・カースルの西側に移動させられたものとなります。

広い駐車場の前には、かつては馬舎だった建物でしょうか、これが長く連なっているのが特徴です。

入り口から庭園内に入って最初に驚く事は、フロアーズ・カースルの敷地内に入った時と同じ印象で、その広さ! 終わりが見えないほどの大きさにまず圧倒されてしまいます。

それもそのはず、このウォールドガーデンの大きさは4エーカー(16187.4㎡、約4918坪)、東京ドーム0.3個分もの広さがあるのです。

入り口から入ってすぐ右手には、グラスハウスの姿が見えます。こちらのグラスハウス、一番古いものは1850年代に造られたそうで、ヴィクトリア朝から続く植物や花が今でも栽培されているのだとか。

歴史的にフロアーズ・カースルのガーデンは、始まりはキッチンガーデンとして、城の食卓へ上る果物や野菜を栽培し、また邸宅内に飾る花を提供するために使われていました。

現在ではカラフルで美しい花が咲き乱れる庭園となって、邸宅の一部と共に一般公開されています。

フロアーズ・カースルの庭園はとても広いので、ボーダーガーデンの奥行きにも十分なスペースがあり、背丈の高い花が多く植えられているのが特徴的でした。

これだけ前後左右、そして高さにボリュームがある植物を植えるには広い敷地が必要となりますが、フロアーズ・カースルのガーデンはその庭の広さを見事に生かしているのが分かります。

さまざまな高さを持った植物がバランス良く植えられ、鮮やかな彩りを持つ花々をたっぷり堪能する事が出来る庭園でした!

華やかな色彩で庭の主役とも言えるローズは、クライミング樹型のものが植栽されていました。

その多くは庭園内のボーダーの中央に植えられ、足元に植えられた花たちとのバランスが美しく、とてもエレガントなシーンを造り上げています。

どこのガーデンへ行ってもエクステリアは気になるものですが、フロアーズ・カースルの庭園ではアイアンのアーチ、そしてそれを繋ぐ鎖につる性のバラが誘引されて上品に咲き乱れ、とても華やかで優美な雰囲気。

このエリアは赤やピンク、また紫色といったカラーリングでまとめられ、フェミニンで優しい印象を漂わせていました。

この広いガーデン内ですぐに目に留まり、また、とりわけ印象的だったのが、グラスハウスのすぐそばに配置された円形のパーゴラです。

最初に遠目で見た際は、庭のエクステリアとして配置してあるのかな? と思ったのですが、実はこのパーゴラは、その他の役目も果たしていたのです。

木材を使い、周囲と中央には花が植えられ、素朴でナチュラルな、庭の素敵なフォーカルポイントにもなっているこのパーゴラ。

近くに寄ってよく見ると、それぞれの面の上部に、名前が刻印されたボードが設置してありました。

そこにはこのフロアーズ・カースルの庭園で働いていた、ヘッド・ガーデナーの方たちの名前が。

庭園はそのファミリーだけでなく、ガーデナーの努力なしでは成立しないもの。カー家の人々は、その感謝の思いを込めて、このパーゴラを建てたのでしょうか。

ガーデナーの方たちの才能と努力に敬意を表した、とても素敵なものだと感動しました。
この写真にある、1814年から1868年にヘッド・ガーデナーだったヘクター・ローズ氏(まさにヘッド・ガーデナーにぴったりなお名前です!)は、非常に優れたガーデナーだったそう。

ローズ氏はグラスハウスの最初の植栽を担当していたそうです。

現在のフロアーズ・カースルの庭園のヘッド・ガーデナーは、以前はイギリス王室が夏の休暇の際に使用するバルモラル・カースルのヘッド・ガーデナーであった、42年という長いキャリアを持つアンドリュー・シモンズ氏。

そして23年間フロアーズ・カースルのガーデニング・チームに所属しているレンフル・ウォーター氏、11年間ここで働いているサイモン・マクマナス氏の3人が、現ロックスバラ公爵夫人の再開発プロジェクトの庭園設計チームとしてフルタイムで勤務しているそうです。

ガーデンの一番左側奥手には、赤やオレンジ、黄色などのホットカラーをメインとしたボーダーがあり、とても明るく生き生きとした鮮やかな雰囲気を演出していました。

ホットガーデンのボーダーもとても長く、奥行きもたっぷり。

赤やオレンジ、黄色の花をまとめて使うホットガーデンは、これだけのスペースに植えられていると、とても迫力があり、植物の生命力とその力強さを感じさせます。

このホットガーデンのコーナーには、ヘッド・ガーデナーズ・ハウスがあります。

以前はヘッド・ガーデナーの住居だったそうで、滞在した際には分からなかったのですが、ここは現在宿泊施設として借りる事が出来るようです。

滞在は最低4日間からとちょっと長めな設定なのですが、2階建てのこの家はベッドルームが2室、バス・シャワー室も2つあり、キッチン付きとの事なので、家族で滞在するのも楽しそう!

もちろんこの家から広大なフロアーズ・カースルのウォールガーデンの景色を堪能出来て、来場者が帰った後も、この素晴らしい景観をたっぷりと楽しむ事が出来そうです。

興味のある方は、下記のリンクを参考にして下さいね。

ヘッド・ガーデナーズ・ハウスのそば、そして入り口左手には素敵なカフェが常設されており、すぐ目の前のブルーのカラーをメインとしたボーダーガーデンを見ながら、休憩をする事が出来ます。

滞在した日は、ガーデン自体はそれほど混んではいなかったのですが、カフェは満席。

ガーデニング愛好家の皆さんが、このフロアーズ・カースルの庭園について感想を語り合ったりしていたのではないでしょうか。

フロアーズ・カースルは敷地自体が非常に大きく、邸宅やガーデンもさすがスコットランド一の大きさと言われているだけあって、見て回るだけでも時間がかかる場所となります。

でも広大なウォールドガーデンは見応えたっぷりで、鮮やかで美しい花が咲き誇るこの庭園は、滞在すればきっと満足出来る場所。

スコットランド・ボーダーズを代表するガーデンとも言えるフロアーズ・カースル、是非スコットランドに来た際には訪れてみてはいかがでしょうか。

フロアーズ・カースルへの行き方

フロアーズ・カースルへ行くのに一番楽な方法は、車での移動となります。というのもフロアーズ・カースルを含む全体の敷地はあまりにも広大で、どこの街からも行くには遠い、という場所なのです。

でもスコットランドを旅行中で、交通公共機関を利用しなくてはならない、という方は、列車、バスで移動しなくてはならない事もありますよね。

フロアーズ・カースルの最寄り駅は Tweedbank ツイードバンク駅となります。

しかし、ここからバスでフロアーズ・カースルまで移動となると、最寄りの街であるケルソーまでバスで1時間10分ほど、そしてさらにそこから徒歩で20分ほどかかってしまいます。

そのため、降りる駅は手前のGalashiels ガラシールズ駅で下車をおすすめします。ここまでは、エディンバラから直通の列車で約50分。

また、こちらの駅の方がツイードバンク駅よりも大きく、タクシーが見つかる可能性が高いです。
タクシーが見当たらない時は、駅員さんに尋ねてみて下さいね。タクシーを見つけたら、往路の予約もお忘れなく。

Galashiels ガラシールズ駅からフロアーズ・カースルまでは車で約25分、約24キロほど離れた場所にあります。

交通公共機関ではちょっと行きにくい場所となりますが、広大なウォールガーデンを堪能出来るフロアーズ・カースルに滞在してみませんか?

オープン時間や料金などは、下記のウェブサイトを参考にしてみて下さいね。