チェルシー・フラワーショー2017を訪ねて Vol.1 ~英国で最も有名なガーデン&フラワーショー~

毎年5月、イギリスはロンドン・チェルシー地区にて行われ、世界でも名高いガーデン&フラワーショーとして知られるチェルシー・フラワーショー。チケットは先行販売のみで常に事前に売り切れ、イギリスはもとより、世界各国から16万人ものガーデニング愛好家の人々が訪れる、ガーデンの祭典をレポートします!

チェルシー・フラワーショーとは

チェルシー・フラワーショーは、1804年に発足された英国王立園芸協会(RHS)が1862年、今は存在しない、ケンジントンにあったRHS所有のガーデンで春のガーデンショーを主催したのが始まりです。

その後1888年から1911年まではテンプルのガーデンで開催され、現在のチェルシー・ホスピタル(チェルシー王立病院)へ移動したのが1913年となり、今年で104回目を迎えた、非常に歴史あるガーデン&フラワーショーなのです。

アーティザン部門出展
『The Viking Cruises Garden of Inspiration』 2017年度ゴールドメダルを受賞
以来、第一次世界大戦と第二次世界大戦中のある期間を除き、毎年5月に5日間(来場者が増えたため、2005年に4日間から5日間へと延長されました)行われて来た花とランドスケープ・ガーデンショーであるチェルシー・フラワーショー。

花や植物の展示や、デザイナーが提案したガーデンのショーだけでなく、ガーデニングに関するグッズやショップの展示もあり、見どころがいっぱいで、ガーデニング愛好者にとっては見るもの全てが楽しいショーとなっています。

会場であるチェルシー・ホスピタルの大きさは11エーカー、約45,000㎡であり、東京ドーム(46,755㎡)よりも少し小さいという規模で、ここに訪れるガーデニング愛好家の入場者数は165、000人とも言われ、まさに英国の一大イベントとも言えるショーなのです。

ガーデニング愛好家が集まる一大イベント、チェルシー・フラワーショー

当日は非常に天気に恵まれ、25度という気温で真夏のようでした。会場前にはたくさんの人で賑わっており、いかにイギリスの人々がガーデニングを愛しているかが分かり、また、このショーの人気の高さを実感させられます。

今年のチェルシー・フラワーショーの開催とほぼ同時期にマンチェスターでのテロという非常に痛ましい事件があり、入り口ではとても厳しいセキュリティーチェックが行われてました。

訪れたこの日は、イギリスの祝日であるバンクホリデーを前にした金曜日という事で、内部はとても多くの人であふれていました。

あまりに凄い人込みの為、展示されたガーデンの傍に行く事すらままならないほど。
実際、チェルシー・フラワーショーでは以前から、この人気の凄さがひとつの問題にもなっています。
過去には1979年、入り口で一時入場を制御しなくてはならなかった事あるそうです。

以来、朝は8時にオープンし、夜は8時にクローズ、さらに時間制限のあるチケットの値段を安くするなど、来場者が一定時間に集中しない配慮がされているのですが、それでも人気が衰える事はまったく無く、朝早くに来場するのがゆっくりショーを見るコツのようです。

チェルシー・フラワーショーのメイン、ガーデンショー

アーティザン部門出展          
『Walker's Wharf Garden supported by Doncaster Deaf Trust』 
2017年度ゴールドメダル受賞、ベストアーティザン・ガーデン賞受賞
チェルシー・フラワーショーでのメインはなんといってもガーデンショーなのではないでしょうか。
チェルシーではショーガーデン部門、アーティザン部門、フレッシュガーデン部門と分かれ、今年は新たにBBC Radio 2 のFeel Good ガーデン部門が設けられました。

また出品したガーデンは、ガーデンデザイナーには最高の栄誉である賞が審査員から選ばれます。ひとつの部門に一つの賞、ではないのもポイント。
賞はゴールドメダル、シルバーメダル、シルバーギルドメダル、ブロンズメダルとなります。ガーデンはデザインや表現、植栽や築造など様々な分野で厳格にジャッジされています。

たくさんのガーデンが設置されていたチェルシー・フラワーショーですが、多くのガーデンの中でも特に印象的だったものをご紹介します。

まず今回はアーティザン部門を。アーティザンとは日本ではフランス語のアルチザンと発音する事が多いようですが、芸術的、工芸的な作品を造り上げる熟練した職人、といった意味で使われています。

ガーデンショーの展示には応募が2000組ほどあるそうで、アーティザン部門では今年は9つのガーデンを展示しています。
この数字を見るだけで、展示者として選ばれるのがどれだけ難しく、かつ素晴らしい事なのかが分かります。

The World Horse Welfare Garden

本年度にアーティザン部門でゴールドメダルを受賞、また一般投票のピープルズチョイスでも一位に輝いたのがこちらの『The World Horse Welfare Garden』です。

イギリス、スコットランドの動物保護団体であり、馬の快復、リハビリ、保護を目的とする慈善団体であるWolrd Horse Welfarre が発足90周年を記念し、サポーターたちへの感謝と、世界中にいる、見捨てられ、世話をされていない『見えない馬たち』の苦境、快復を表した作品だそう。

このガーデンの物語は、庭の片隅にいる、見捨てられ、遺棄された場所から馬を助け出し、愛情をこめて看病された馬はやがて健康になり、居心地の良い牧草地で幸せに生きている姿を描いたもの。

このガーデンを見た人々が、見捨てられた馬たちの苦境に気付き、助け出したいという気持ちにさせたいという、強い想いを表しているそうです。

驚いたのは、こちらの馬は、馬の蹄に付ける蹄鉄で造られていた事。人々に気付かれていない、見捨てられた馬たちの存在、まさに『見えていない馬』を非常に上手く表していると思います。
また、蹄鉄の掠れた色合いが、自然いっぱいのガーデンにしっくりと馴染んでいました。

イギリス人は馬に対して特別な愛情と尊敬を抱いている人が多く、このガーデンがアーティザン部門の一般投票で第一位をとったのも頷けるものでした。

The Poetry Lover's Garden

デザイナーであり、アーティストでもあるフィオナ・キャドワランダーが提案したのは、天気の良い午後に屋外で、水の音に詩を読み聞かせるという、とってもロマンティックで穏やかな、隠れ家的なガーデン。

ひと目を引く建造物と、リラックスした植物という、現代的なアイテムと、古典的な素材のふたつを上手にミックスしています。

パッと目に着く、爽やかな夏を感じさせるライムツリーは、このガーデンのインスピレーションとなったイギリスのロマン派詩人、サミュエル・テイラー・コールリッジのロマンティックな詩『The Lime Tree Bower My Prison』を表しているそうです。

ツタに覆われた石で造られた壁、ステンレススチールの水盤を流れる水のせせらぎ、廻りに咲き誇る美しい花の数々。
これらすべての要素が絡まり合い、引用したドラマチックな詩の結びのスピリチュアル性を実感し、見る人の想像力を高めてくれるガーデン。

イギリスらしい石造りと可憐な花たちのコントラストが美しく、この庭で過ごしたら、心を安らかに、そして穏やかにさせてくれそうなイメージでした。

The CWGC Century Garden

アーティザン部門でシルバーメダル賞を受賞したのが、こちらの『The CWGC Century Garden』。
今年2017年は、展示者であるコモンウェルス戦争墓地委員会(戦争中、イギリス連邦加盟国の軍役の戦死者の墓地、記念碑の管理、記録を目的とした政府機関)の創設100年周年であり、それを記念としたガーデンです。

CWGCは、今でも150ヵ国に渡る170万人の戦死者をケアしているそうで、この庭は戦死者への敬意と、世界各国から集まったガーデナーの優秀さ、職人技術を褒め称えているそうです。

この写真では片側にしか見えませんが、実際は両サイドに設置されている銅像は、護衛をしているイギリス海軍の軍人だそう。
そしてひと目を引く丸いアーチは、最も大きいCWGC墓地である、ベルギーのタインコット墓地のブロンズの花冠をイメージしているそうです。

中央のアーチが非常にインパクトのあるガーデンですが、周囲に施された繊細さを持つ花が雰囲気を和らげ、暖かな空間にしていました。

The Seedlip Garden

こちらは今話題のドリンク、SEEDLIP社が開発した世界初、ノンアルコールのスピリッツであるSEEDLIPの物語からインスピレーションを得て造られたガーデンです。

SEEDLIPとは、かつてイギリスでは17世紀に薬剤師が小さな銅製の蒸留器でハーブの薬を作っていた事があり、1965年に出版された、その方法を記した書物と同じ製法で開発したノンアルコールのスピリッツ。

庭の中央の銅製の彫刻は、SEEDLIPの開発者が小さなキッチンで世界初のノンアルコールのスピリッツを発見した時の、本から得た知識をボトルへと詰め込んだ、350年の歴史を描いているそうです。
銅製の配管と庭を巡る水路は、蒸留への感謝であり、ガーデンに植えられた植物の色彩は、現代と過去の薬草両方からインスピレーションを受けているそう。

このSEEDLIPはロンドンではブラウンズやリッツ、サヴォイやクラリッジなどの高級ホテルのバーで飲む事が出来、お酒が苦手な人も、酔いたくない人にもぴったりなドリンクとして注目を集めています。

森の中にいるかのような、初夏の風を感じさせてくれるナチュラルな雰囲気、そしてストーリー性をしっかりと感じさせてくれるガーデンで、SEEDLIPのスピリッツも是非トライしてみたくなりました。

『葉隠/Hidden Leaves』

2014年にチェルシーフラワーショーにてシルバーギルド賞を受賞した、佐賀県出身のガーデンデザイナー・野田珠晃氏のデザインによる、本年度のシルバーギルド賞を受賞した『葉隠/Hidden Leaves』。

小学校2年生の時から剣道を学んでいるという野田氏が、出身の佐賀県の鍋島藩士の書である『葉隠』をテーマに造り上げた庭がこちら。

日常からの騒音やストレスから離れ、神聖で平和な場所であるこの庭では、家族や友人と過ごす事が出来、また訪れた人々は、繊細な白い花々が咲く、木陰の下の畳を敷いたベンチに腰掛ける事も出来るのだそう。

この庭のインスピレーションとなった雰囲気と自然は氏の出身地であり、現在も活動をされている佐賀県のものだそうです。

タイトルに付けられている『葉隠』とは『葉と木陰』となり、それは生と死を表し、選んだ色彩は清廉さのシンボルであり、日本では純粋性を表す白がメインとなっています。

キリリと引き締まった鳥居をイメージさせる中に、繊細な白い花がバランス良く植えられ、引きの効果を存分に発揮しているのが印象的でした。
また、木々や葉が作り出した木漏れ日がとても美しく、花や植物の存在が一層際立つガーデンでした。

今回展示されたガーデンの中では花の美しさにおいて群を抜いており、暑さも吹き飛ばしてくれるような清涼感がありました。
実際に植栽技術では、開花や色の使い方で審査点数は満点を得たそうです。

同じ時に見ていた周囲のイギリス人の方々も花の美しさに感嘆しており、そばにいらした日本人女性スタッフの方にあれこれと尋ねていました。
イギリスでは炎天下とも言える夏日でしたが、てきぱきと美しい英語で説明されている姿が印象的でした!

『御所の庭/No Wall, No War』

2004年チェルシーフラワーショーにてシルバーギルドメダルを受賞、2006年~2008年に渡り3年連続ゴールドメダルを受賞。

2011年シルバーメダルを受賞、2012年から今年に渡りゴールドメダルを6年連続受賞、アーティザン部門でも6年連続金賞受賞。

また2016年にはチェルシーフラワーショーの出展作品の中でトップであるプレジデント賞も受賞という、素晴らしい快挙を成し遂げている石原和幸氏による、本年度アーティザン部門ゴールドメダルを受賞した『御所の庭/No Wall, No War』。

この人込みをご覧ください!
とにかく石原氏の人気は凄まじく、今回展示されていた全ての部門のガーデンの中でも一番人気だったのではないでしょうか。

石原氏の才能もさることながら、こちらでのTV番組などに出演されている石原氏のキャラクターも大人気のようです。
近付く事すらままならず、5分程並んでようやくガーデンを拝見する事が出来ました。
今回のガーデンのタイトルである『御所の庭』。平安時代の京都御所には、敵に攻撃される、という意識がなく、垣根も低く造られ、開放的な庭であったと言います。
その概念を表したこのガーデンは決して攻撃される事もなく、それ故に守るための堀も壁もないものとなっており、平和への想いを込めて作られたガーデンだそうです。

木々の葉が持つ色合いのコンビネーションと、庭を流れる川の清涼さ、岩の持つ静けさなど、落ち着いてクラシカルな雰囲気に圧倒されつつも、平穏で静かな気持ちにさせるガーデンでした。
石原氏の特徴とも言える苔の使い方も素晴らしく、日本独特の細やかで美しい、工芸品を眺めているような気分にさせてくれる庭でした。

他の誰にも真似できない、オリジナリティあふれる異空間を造り上げ、何年もファンをあっと驚かせ続けてくれる石原氏のガーデン。また是非来年も見てみたいと思います!

ガーデンショーだけでなく、花の展示も見どころがいっぱい!

ガーデニング愛好家の心を沸き立たせる、年に一度の祭典、チェルシー・フラワーショー。
次回ではその他のガーデン部門や、花や植物の展示場であるグレート・パビリオン、ガーデンショップなどをご紹介します。